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□幸せに細めた目。
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僕の彼女は少し哲学的だ。

難しいけどすごく綺麗な言葉がこの耳に届いて、
正解をもっともっと知りたくなっちゃうんだよ。










幸せに細めた目。












「それでね、しょーちゃん!」


学校帰りの手を繋いだ制服の袖を風が駆け抜けて少し体をひんやりとさせる。


夏祭りももう終わったはずなのに、
僕らの地元では少し遅れた秋祭りの屋台が連なっていた。





「いとこがね、湘南で結婚式挙げてたの。
すっごく素敵だったんだ、海!」

「花ちゃん、海好きなん?」

「うん。好き。
青くて大きいものが好き。」






繋いだ手を振りながら君はずんずんと祭りの人混みを進む。





「あとねぇ、りんご飴も好き。」



僕の分と君の分、
二つのりんご飴を買ってやると嬉しそうにそう言った。






「甘いもの好きやもんね。」

「うん。
赤くて丸いものも好き。」





神社の近くにぶらさがっただるまをみて微笑みながら、

君はまだまだ進む。










「しょーちゃん、
綿あめ食べたい」

「綿あめ?」

「うん、半分こしよ。」



その言葉が嬉しくて、
ちょっと懐かしいキャラクターの袋に入った綿あめを買った。



「白くてふわふわしたものも好き?」


君の言葉を先に紡いでみると、
嬉しそうに頷く。





「なんか花ちゃんの好きなものって全部空にあるなぁ。」

「そうだねぇ。」




なんとはなしに空を仰ぐ。

青くて大きい空。
赤くて丸い太陽。
白くてふわふわした雲。


「だけど空はあんまり好きじゃない。」

「そうなの?」

「見上げるのが大変なんだもん。」




ううん、難しい。


「じゃあ、花ちゃんは他になにが好きなん?」

「なんだと思う?」

「ううん………」




君の出すクイズはいつも難しくていつも検討もつかないんだけど、
それを考えてる時間が好きだ。


「猫?」

「んー、好きだけど、ぶー。」

「…犬…?」

「ぶー。正解はー、」





たん、と君は足音を鳴らして僕の前に立ち、


「正解は、しょーちゃんでした!」


あぁ、もう、
本当に君っていう子は、

僕をつかんで離さない。








好きだ好きだ、と想いが溢れて、
道の真ん中も気にしないで思いっきり抱きしめた。


「海、行こうよ。
今年はさ、夏終わっちゃったけどさ、
海行って、そんで………」


何故だかまるで世界に僕と君とだけの2人になったような気がしてて、

抱きしめた腕に少し力を入れる。


「結婚式しよう。」


学生の僕たちにはまだまだ先の話なんだけど、
そんな言葉がふいに口をついて出た。




しようしよう、って僕の肩に顔をうずめたままくぐもった笑い声が少し暗くなった空に響く。



「ねぇしょーちゃん、
やっぱり私空が好き。」

「…え?」

「しょーちゃんといれば幸せなんだもん。
ずっと上向いていられるよ。」








「僕も、やで。」







赤くて丸い太陽が隠れてしまう前に、
そうだ、手を繋いで、上を見上げてゆっくりゆっくり帰ろうか。






(Happy birthday to love you...!)
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