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□狼彼女
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ベランダに黄色い影が伸びた。

あたしは満月が苦手だ。

別に狼になるわけでもないけれど、

こんな日に君がいないとやっぱり怖い。








狼彼女











会いたい、
とメールを送ってみた。


どうしたん?
って聞かれて返信に迷ってたら、

もちろん行くけどさ、
心配になってん。

って追うようにまたメールが来た。

少し焦ったような文に思わず笑みがこぼれる。

どうしたん?か。
満月が怖いだなんて、文面で言う勇気はあんまりない。




画面と睨み合ってるうちに、
インターフォンが鳴った。

君の得意技は瞬間移動だったっけ。


「忠義、早かったね」

「ん、まぁ…珍しいから。
花が呼び出すなんて」


適当にお茶を入れて机に置くと、ぽつりと彼がつぶやく。


「月が綺麗やな」


カーテンの隙間からうっすら覗く黄色い丸は、

何の気なしに目を向けただけでも感銘を受けるくらいくっきりと、

黒い絵の具の中にぽつんと際立っていた。



「そうだね、
…ちょっと怖いくらいに」



しんとした部屋の中に洋服が動いてかさかさとした音が響いて、

心地よい気分になったのだけれど、

それはきっと音だけではなくて君の体温が後ろからそっとあたしを包んだから。


「花狼になってまうんかな」

「だから満月が怖いのかもね」


そんな馬鹿みたいなことを真剣に話す大人は寂しそうにまるで2人ぼっちみたいに部屋の中で寄り添った。




「狼になっても好き。
どんな花でも好きやで。」



「……狼になんかならないよ。」





君がくれた言葉が嬉しくて嬉しくて、

返す言葉を脳みそから拾うことすらままならないくらい舞い上がって、

そんな当たり前のことを言った。





ベランダに黄色い影が伸びた。

あたしは満月が苦手だ。

だけどこんな日に君がいれば、

夜空の覇者だって怖くない。




(満月は会いたい口実…?)
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