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□桜の時
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「ん?なんか感じ変わった?」

「うん、メイク変えた」

「へぇー…」




憧れだった、その背中。













桜の時/aiko














大したことしてきたわけじゃない。
それでもやっぱり、
色んなこと頑張ってきたわけで。

何が正解で何が失敗だったのか、
一つ一つ思い起こして仕分けるほど暇ではないけど、全て間違いじゃなかっただなんて言い切る根拠もない。



だけど、あなたと会えたことで、
良いも悪いも全部報われた気がします。




何が言いたいかっていうと、
笑ってこの川沿いを歩く今日のような日々が幸せだってことなのです。





「もう春やねぇ。」

「あったかくなるかなぁ。」

「そろそろなるで、!
花のだーいすきな、春。」



ほーんわかした空気で、
女の子みたいな笑顔で、

しょうちゃん、って呼んだら
なに?って言って、

なんでもない、って言ったら
そっかぁ、って笑う。

なにげない。ほんとになにげない。

だけど愛しい。ほんとに愛しい。





「うん。
春が終わったら、雨降りの季節だね。」

「梅雨ねぇ、嫌い?」

「ううん。好き。」

「ん、よかった。」





雨降りの季節。

空から涙が落っこちてくる度に顔をしかめてたあたしだけど、

雨上がりの虹を教えてくれたもの。
あなたが、あたしに。






「そしたら秋が来て、冬が来て、
またこの季節やねぇ。」

「一年後、かぁ。
何してるんだろね。」




春が終わり夏が訪れて、
桜の花びらが朽ち果てても、


…今と変わらず、
隣を歩いててくれますか?…







「また相も変わらず、
季節を待ってるんやない?
二人で、こうやってさ。

春が来るとね、
ここ、桜がめいっぱい咲き乱れるねん。」

「桜?」


「そう。だからさ、見に来ようや。
今年も、来年も、再来年も、十年後も。」







あぁ、好き。好きよ。
そうやってあたしの心を読むように、
くすぐったいほどの愛の言葉をくれるところ。


嬉しくて嬉しくて、
思わずきょりをつめたら、
ほんのちょっぴり強引に手を繋がれた。



あたしの右手も、心も、全てを、
あなたは動かし掴んで離さない。

ぬくもりに包まれたまま、
桜のたまごの川沿いをまっすぐ見据えたらまるでなんでもうまく行きそうな気がした。

限りない日々と、廻りめぐる季節の中で、

いつも微笑んで、どんな困難だって大したことないって言って、

ゆっくりゆっくり二人で歩幅を合わせて。



十年後、
また違う幸せなキスができますように。



近づくあなたの顔に、
そう願って目を閉じた。









「ん?なんか感じ変わった?」

「うん。メイク変えた。」

「へぇー…」



憧れだった、その背中。



「なぁに?」

「いや、ほんま、可愛いなぁって。」



今は肩を並べて、歩いてる。



(つまり、
手のひらの言葉じゃ足りないのです。)
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