執事シリーズ

□フナたんと執事A
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小学校5年の時、タオが両親と一緒に隣の国に行くことになった。


「タオね、こんど隣の国の王子様に会いに行くんだよ!」


「へぇ!凄いね!」


その時は、ただの旅行なのかと思っていたのに…



タオが出国して翌日の新聞を見ていたママが


「あら!これタオちゃんじゃない!?

隣の国のクリス王子と、ご婚約内定ですって!」


「こんやく?」


「婚約っていうのは、結婚のお約束をすることよ。

王子様と結婚なんて、まるでお伽話みたいね!うふふ♪」




フナたんは、強く頭を殴られたみたいにショックでした。


将来、ぼくがタオと結婚しようと思っていたのに!

タオだって、そのつもりでいると思っていたのに…



タオちゃんが学校に来た朝、すぐに婚約の事を聞いてみました。


「ねぇ、隣の国の王子様と結婚するって、本当なの?」


「うん…

親同士が、前から決めていたんだって。」


「タオは、それでいいの?」


「うーん…王子様、かっこ良くて優しかったし…」


「なんだよ、それ!ぼくの事は、どうでもいいの?タオのバカッ!」


「あ…セフナー!待ってー!」


悔しくて、その場から走って逃げてしまいました。


その日は1日中タオちゃんと口もきかず、1人でさっさと家に帰ってしまったら、後からタオちゃんが家にやって来ました。


「セフナ…怒らないで…

ぼく、婚約はしたけど、セフナのこと、前と変わらず大好きだよ」


と、瞳を潤ませて、今にも泣きそうな顔をしています。

そんなタオちゃんを目の前にして、フナたんは放っておける筈もありません。

もう、怒ってないよ…と言って、タオちゃんの事を抱きしめて、唇にチュッとキスをしました。


ちょっと悲しいファーストキス…



婚約したとは言っても、相手の人とタオが会うのなんて、せいぜい年に1度か2度…

本当に結婚しちゃうまでに、タオがぼくと結婚したいって思わせればいいんだ!


と、その時は楽観的に、そんな事を思っていました…


でも、現実は厳しく、タオちゃんはクリス王子に会いに行く度、どんどんクリス王子に惹かれていくのでした。

それでも、フナたんが、ぼくの事好き?って聞けば、好き!って答えてくれるのです。

だけど、そんな状況が一変するような事が起きてしまいました…



大学卒業後に来るはずだったクリス王子が、2年も早く、こちらに来ることになりました。

しかも、タオちゃんの家に滞在するのです。

フナたんは、もう嫌な予感しかしません…



そして、決定的なシーンを見てしまったのです。


タオちゃんとクリスの事が気になって、フナたんは久し振りにタオちゃんの家に遊びに行きました。

昔から出入りしているので、ほとんど顔パスで入れてもらい、タオちゃんは勉強中だからと、応接室に通されました。

しばらく待っていたけど、そろそろ終わる頃かな…とタオちゃんの部屋を覗きに行ったのが運の尽き。

タオちゃんとクリス王子が、抱き合ってキスしている真っ最中だったのです…

しかも、フナたんとのキスなんかとは違う、もっと、オトナの人みたいな激しいやつ。

タオちゃんが切なく潤んだ瞳でクリスを見つめて、クリスは愛おしくて仕方ないといった顔でタオちゃんを見つめ返しています。




終わったな…と思いました。

フナたん、完全に失恋です…



そのまま玄関に行って、外に出ました。

どこをどう歩いていたのか、すぐ近くのはずなのに、家に着いた時には、空はもう真っ暗になっていました。



部屋で膝を抱えて丸くなりながら、フナたんは今後のことを考えました。

タオちゃんは情に厚い子なので、フナたんが情に訴えれば、絆されて流されてしまうでしょう。

でもタオちゃんはクリスを愛する気持ちとの板挟みで、いずれ心が壊れてしまうかもしれない…

フナたんは、タオちゃんを好きな気持ちは変えられないけど、自分の想いを通すことで、タオちゃんを苦しめたくはありません。

タオちゃんの事を好きな気持ちのまま、タオちゃんの負担にならないようにするには、どうしたらいいのか、頭の中でグルグル考えた結果…



「セフナ、おはよー」


「タオ、おっはよー!」


と言いながら、タオちゃんの事をギュ〜っと抱きしめました。


「ちょっ…セフナ!なに!?」


フナたんが人前でそんな事をするなんて初めてなので、タオちゃんはビックリしました。


「あー、セフン、何してんのー!」


他のクラスメイト達も、何だ何だと注目しています。


それを尻目に、フナたんは涼しい顔をして、へへへっと笑って行ってしまいました。

クラスメイト達も、なんだあいつ、変なやつだなー、と笑っていました。


それからも、時々タオちゃんの不意をついて、急に後ろから抱きついてきたり、ふざけながら、タオーすきすきー!と言ってみたりと、初めはいちいち驚いていたタオちゃんでしたが、だんだん呆れ顔になってきました。




それで良いんだよ…タオ、もっと怒って、呆れて、バカにして…



フナたんは、ドラマなどで、主人公に想いを寄せて、しつこく纏わりつくけど全く相手にされず、だけど何だか憎めない三枚目の脇役…それを完璧に演じようと決めたのでした。


アホな子セフンの片思い…クラスメイトたちにも、そういう風に面白がって見てもらえたら良い。

残りの学校生活を、タオと楽しく過ごせたら、それで良いんだ…



そして、今に至るわけなのです。




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