執事シリーズ

□フナたんと執事
2ページ/2ページ




人形の墓という名のお化け屋敷で、ストーリーとしては、幼くして死んでしまった女の子が大切にしていた人形を誰かが持ちだしてしまい、怒った女の子の怨霊を鎮めるために、その人形を女の子のお墓に納める…というもの。

入り口で人形を受け取り、2人で恐る恐る入場…

フナたんも、ちょっぴり怖かったけど、それ以上にタオちゃんが怖がっているので、自分がしっかりリードしなくては…と気合を入れました。
それに、タオちゃんがフナたんの腕にギューーーッとしがみついているので、ちょっとラッキー


「やだ…もう帰りたいー」


「ぼくも、ちょっと怖いかも…」


「もー、ほんとヤダ、ほんとヤダ…」



ガタガタガタ…

「あ゛〜〜〜!」


「タオ、大丈夫だよ…行こっ」



バンバンバンバンッ

「あ゛〜〜〜っあ゛〜〜〜っ」


「大丈夫、大丈夫だって」



ガバッ ヒタヒタヒタヒタ…

「わーーーーーーーー」


「来んな!来んなよ!」



2人とも緊張と叫びすぎで、ゲッソリしてきました。


「まだぁ…」


「あ、あれじゃない?」


いかにもな雰囲気の墓石と、むき出しになっている棺が見えてきました。


「これ、ここに入れるの?」


「セフナ〜、早くぅ…」


「入れるよ?入れるよ?」


「早く入れてぇ!」


お人形を棺に入れてみましたが、特に何も起きませんでした。

これで終わりだ…と安心した途端、




グワァ〜〜〜!


「ひぃ〜〜〜〜〜〜〜」

「わぁ〜〜〜!」


走って逃げて、ようやく出口に辿り着きました。



「あー、面白かった!」


「面白くないっ!」


「タオったら…泣いたの?」


「…泣いた…」


「も〜、タオ可愛い!」



「叫びすぎたから、喉乾いちゃった…ちょっと休憩しよ?」


「オッケー、じゃあ、あそこ座ってて!ぼく、飲み物買ってくるよ。」


「じゃあ、ぼくコーラ!」


「了解!」




売店でコーラを2つ買って、タオの所に戻ると、タオが数人に囲まれてオロオロしていた。


「友達に何か用ですか?」


「おまえ、監督の息子だろ」


「そうですけど…映画の出演者の方ですか?」


「そうだよ、俺達は、あんたと違って、ちゃんとオーディション受けて選ばれてんだよ。」

「親の七光りで、ちょろちょろっと出演させてもらえる人は、マジ羨ましいっす。」

「今日も、お友達と遊びながらのご出演ですか〜、お気楽ですねぇ」

「正直、お坊ちゃまの道楽で、遊び半分に役者やられても迷惑なんだよ。」

「ほんと、そんなやつに出演されると、作品の質が下がるわ。」



遠目で見ていたクリスが、仲裁に入ろうと席を立ったが、チャニョルがそれを引き止めて、このまま見守るようにと促した。




「遊び半分なんかじゃありません…」


「はぁ?何か言った?」

「聞こえねーな。」


「ぼくは、遊び半分なんかでやってません!毎回、どんな役だろうと、真剣に取り組んでいます!

オーディションは受けていませんけど、父とは一緒に生活をしてますから、毎日がオーディションだと思っています。

だからオファーがあった時は、選ばれた事に誇りを持って演じていますよ。

それと、ぼくを馬鹿にするのは構いませんけど、父が親バカみたいに誤解されるような事を言うのは止めて下さい。」


「じゃあ、将来は役者として本格的にやるつもりあんの?」

「あんた、そこまでの覚悟あってやってんのかよ!」


「将来、役者になるかどうかは、まだ考えていません。

でも、この仕事は好きですし、父のことを尊敬しているので、今後、映画の勉強はしてみたいとは思ってます。」





「はい、カット!」


「…え?」


「お疲れ様でーす」

「お疲れ様でしたー」

「お疲れっした」

フナたんに絡んできた人達が、すーっと居なくなりました。
呆然とするフナたんとタオちゃんのところに、フナたんのお父さんがやって来ました。


「フナ、真摯に熱く語る感じが良かったよ。」


「パパ…監督…今の撮影していたんですね。」


「うん。良いものが撮れた。でも、内容がプライベートすぎるから映画としてはボツかもな。」

わっはっはっと笑いながら、行ってしまった。

あれ?やっぱりうちの父は親バカなのかな…?




「セフナ、今の映画の撮影だったんだね!

凄―い!セフナが演技してるところ、初めて見たけど、なんか別人みたいだった!」


「え…あ、うん!タオ、ぼくに惚れちゃった?」


「ふふふー、カッコ良かった♪

ご褒美!」

と言って、タオちゃんがフナたんのホッペに、チューしてくれました。


「タオー!口!口にもしてー!」


「きゃー、セフナ、変態!調子に乗りすぎ!」


慌てて飛んできたクリスが

「さっ、タオ様、そろそろ帰りましょう。

セフン様、本日はありがとうございました。」

タオちゃんを連れて、そそくさと帰ってしまいました。





「セフン様、お疲れ様でした。」


「うん。さっきは焦ったよ。タオの前で素の自分が出ちゃった…」


「いつまで被り続けるおつもりですか?アホな子キャラの仮面…」


「ぼくは小さい頃から、ずっと役者やってきてるんだよ?

タオの前では、ずっと今の仮面を被り続けるつもり。」



だってね、タオ

ぼくは君が思っているよりも、もっと真剣に君の事が好きみたいなんだ。

だから、アホなセフナの仮面を被らないと、怖くて君に近づくことも、話しかけることもできない。

どっちにしろ報われない恋だと分かっているから、一緒にいられる間は、少しでも君と楽しく過ごしたいんだ。



「でしたら私も、ちょっと残念な感じの執事の仮面を被り続けますね。」


「え?それ仮面だったの?」


「セフン様、酷っ!!」



(完)
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ