終わりのない物語

□セフン 3月A
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あ...やっちゃった...


ライブ中、花道をノリノリで移動していた時、頭に鋭い痛みを感じたけれど、一瞬何が起きたか分らなかった。


頭のズキズキした痛みは続く...

真っ黒に塗られたクレーンカメラに気付かず、頭をぶつけてしまったのだ。


ぶつけた辺りを触ると、濡れている感触がして、嫌な予感...

汗であってほしいと、濡れた手のひらを見ると...


これはマズイ。

絶対にファン達には見せられない。パニックになってしまう。


慌てて舞台を降りて、救護室に向かうと、楽屋にいたタオが慌てて飛び出してきた。



「セフナ!ケガしたの!?

あっ!血!血が出てるよ!!」



ぼくよりタオの方が取り乱して大騒ぎしていた。



「ねぇ、救急車呼ばないと!救急車!

セフナが死んじゃう!」


「タオー、大丈夫だから」


「だって、だって、血だよ!頭から血が出てるんだよ!」


「とりあえず!応急処置してもらいたいんだけど」


「そうだよね!早く早く!」



タオも救護室の中まで一緒に入ってきて、治療の様子を見守っていた。



「なんで、こんな事ばっかり続くの...」



タオが呟く言葉に、先日、タオのお父さんがコンサートを見に来ていた時に話した事を思い出した。





「カイ君、先週奈落に落ちてしまったんだって?大丈夫なのかい?」


「うん、手をぶつけちゃったけど、他は大丈夫だったみたい」


「手を痛めたんだから、大丈夫じゃないだろう...

そう言えば、タオもコンサート中に奈落に落ちたことあったな」


「うん、ビックリしたよねー!でもぼくは何ともなかったよ!」


「こういう事故、ちょっと多いんじゃないのか?」


「えー、偶々だよ...」


「タオにしたって、仕事中にケガするの、いったい何度目だ?」


「長い人生に、ケガはつきものなんだから、仕方ないよ...

あ、セフナー!こっちこっち!」



「タオのお父さん、こんにちは!お久しぶりです」


「セフン君、元気かい?タオがいつも世話になってるね」


「はい、元気です。こちらこそ、お世話になってます」


「いやいや、今回のケガでも、皆さんにご迷惑かけて申し訳ないね」



「えー、でも、もう歩くのは平気なんだよ!カムバの時には頑張るもん!」


「ちゃんとケガが完治するまで休ませてもらった方がいいんじゃないか?」


「それこそ、みんなに迷惑かけちゃうよ」


「あまりケガが続くようだと...パパも考えてる事があるんだ」


「何のこと?」


「もう仕事を辞めさせて、青島に連れて帰った方が良いんじゃないかって...

この前ちょっと、ママとも話してたんだ」


「はぁ?パパ何言ってるの?有り得ないよ!ねぇ、セフナ!」


「え?あ、うん...それは困ります」



「まぁ、この話はともかくとして...2人とも本当にケガには気をつけるんだよ」


「はい。」「はぁい。」





タオのお父さんに心配掛けないためにも、ケガには気を付けようと思っていた矢先に、こんな事になるなんて...


そう思ったら、何だか情けなくなってきて、涙が出てしまった。



「セフナ、泣いてる?痛いの?可哀想に...」


ぼくの涙を見て、タオまで泣き始めてしまった。


タオはタオで、自分が舞台に立てないことで、その分メンバーに負担を掛けてしまっているという気持ちがあって、一度泣き始めると、その抑えていた感情までもが一気に噴き出してしまったようだ。



「セフナまでケガするなんて...ぼくが...ぼくが...」


「ぼくが よく見ないで動いたのが悪かったんだよ」


「みんな、だって、体、つらいのに、ぼくだけ、ぼくだけ、休んでて...」


「違うよ、違うから、タオ泣かないで」



ケガ自体は大したことなく、応急処置はしてもらったけれど、頭を打ったから様子見のために舞台には出てはダメだと言われた。


泣きじゃくるタオを抱きしめて慰めながら、胸の中には言いようのない不安が芽生えていた。



あの夢を見るようになったのは、それからだった。

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