終わりのない物語

□タオ 3月
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MVの撮影で足を痛くしちゃったから、また暫く安静にしないとならなくて、大事なコンサートのステージにも、殆ど立つことができなかった。


歩くのは平気なんだけど、ダンスはまだ無理で...

ここでしっかり直して、カムバでは、ちゃんと復活しなくちゃ。



あー、でも悔しい。


EXOのステージを、自分だけ楽屋のモニターで見ているなんて...

早くみんなと一緒にステージに立ちたい!立ちたい!立ちたい!


多少の苛立つ気持ちを抱えつつ、1人でモニターを見つめていた。




ぼくの数少ない出番、チャニョリヒョンと一緒にラップで会場を盛り上げていた時、事件が起こった。


花道を歩いていたジョンイナが、奈落の穴に吸い込まれるように落ちてしまったんだ。


会場は、常にキャーキャーという叫び声に包まれていたから、ジョンイナが落ちた瞬間に上がった悲鳴に気付かなかった人も多かったかもしれない。


ぼくも、出番が終わって舞台袖に下がった時に聞いて、初めて知ったんだ。


幸い、奈落の下で待機していたギョンスに直撃することもなくて、逆に、スタンバイしていたギョンスがすぐに助け起こしてあげられたらしい。


でも、もしも…の事を考えると、ゾッとする出来事だよね。



出番が終わって舞台から下がった後、心配で舞台袖で様子を見ていると、一曲歌い終わってから、ジョンイナがヨロヨロと舞台袖に下がった。

そのままスタッフに抱きかかえられて歩き、ぼくも一緒に救護室まで付添った。

ジョンイナは一応自分の足で歩いていたけれど、顔面蒼白で、右手を左手でそっと抱えていた。


ジョンイナは1人で救護室に入り、ぼくはドアの前で待っていた。


暫くして、ジョンイナの声を押し殺して啜り泣く声がドアの外まで聞こえたので、居ても立ってもいられなくなって、ぼくは救護室に飛び込んだ。

だけど、彼に掛ける言葉もなくて、黙って背中を摩ってあげるしかできなかったんだ...



「悔しい...悔しいよぉ...」


「うん...」


「この後のステージは出ちゃダメだって...」


「そっか...」


「今日、初日だよ!?今日のために どれだけ準備してきたんだよ!

それなのに、オレの不注意で...」


「ジョンイナのせいじゃないよ、自分を責めないで...」


「グスッ...悔しいよぉ...」



ジョンイナは、また静かに泣き出した。


舞台に立てない悔しい気持ちは、ぼくもよく分かってるけど、上手い慰めの言葉が見つからなくて、ただ背中を摩ってあげるだけだった。



ジョンイナは幸い手の負傷だけだったようで、次の日からは予定通りのステージをこなしていた。



だけど、事件は これだけでは終わらなかったんだ。

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