執事シリーズ

□タオちゃんの執事C
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夏休みが始まり、クリスはタオちゃんを連れてバカンスを兼ねた里帰りをしました。

ファン家のプライベートジェットに搭乗すると、隣国のクリスの国までは あっという間のフライトです。

空港でお迎えの車に乗ると、夏の青空にひと際映える、真っ白な宮殿が見えてきました。
宮殿は一般の人が出入りできる観光用のエリアと美術品や宝飾品等の展示室、そして王の執務室と、スタッフ達のオフィス、国賓等を招いた際の応接室や晩餐会用の大きな食堂などがありますが、実際の住居は別の場所にあります。

宮殿の脇にある一般は立ち入れない小径を通り、木々の生い茂る森を抜けると、王の家族たちが生活している宮廷があります。
車が玄関の車寄せに到着すると、父王、王妃、そして兄王子達...ロイヤルファミリーが勢揃いで玄関に出迎えてくれました。


タオちゃんは男の子ですが、カーテシーで可憐に皆さんにご挨拶して、父王をはじめ兄王子達は目尻が下がりっぱなしです。

(※カーテシーとは、ヨーロッパの伝統的な女性のみが行う挨拶方で、片足を後ろに引き、膝を軽く曲げて背筋は伸ばしたまま挨拶します)



「やあ久しぶりだね!タオちゃん、相変わらず可愛いなぁ」

「カーテシーも良いけど、もっと気さくにハグとキスの挨拶でいいのに」

「タオちゃんの為においしいお菓子を買っておいたよ!私の部屋に食べにおいで」



兄王子達は、クリスに負けず劣らずの美青年揃い。
四兄弟が揃うと、それはそれは華やかで眩しいくらいの光景です。

その兄達が気さくにタオちゃんに話しかけ、それは良いとしても、必要以上にベタベタ ナデナデと馴れ馴れしく触るので、クリスは慌てて引き剥がし、


「兄上達、タオは長旅で疲れてますので、これで失礼します」


と、さっさと自分の部屋に連れて行きました。


「長旅って...飛行機であっという間の距離ではないか」

「クリスは相変わらず独占欲が強いな」

「可愛い義弟と仲良くしたいだけなのに...」




「タオ、兄上達には、くれぐれも気を付けるんだよ」


「え?どうして?
兄王子様達、皆さんお優しいから、ぼく大好きだよ!」


「ダメダメ、油断したら何されるか分からないからね」


例え兄弟でも、タオに近づく者には容赦ないクリスなのでした。



さて、クリスの部屋ですが、室内からドアで行き来できる侍女達の控えの間が繋がっています。
そこを改装して、タオが使えるように天蓋付きの可愛らしいベッドや 座り心地の良さそうな豪奢なソファセットなどが置かれています。



「わあ、素敵なお部屋だね」


きっと王妃が タオのために選んでくれたのでしょう。その温かいおもてなしに感謝するタオちゃんなのでした。



「タオは私の部屋で一緒に寝るのだから、新しいベッドなんて必要ないのにね」


クリスは勿論、タオとは自分のベッドで一緒に寝るつもりです。


「えー、でも折角ぼくの為に用意して下さったのだから、使わないと申し訳ないよ...

それに、ほら!とっても寝心地が良さそう!」


ベッドに腰かけてポヨンポヨンしているタオちゃんを愛おしく見守り、じゃあ、こっちの部屋で寝るのでも良いかな...と思うクリスなのでした。




トントン

「クリス様、ミンソク様がお見えになっています

応接の間で お待ちです」


宮廷の執事が呼びにきました。


「分かった、すぐ行く」


「クリス、ミンソクさんって、どなた?」


「私の同い年の従弟なんだ
彼はずっと海外に留学していたから、タオはまだ会った事なかったよね
早速ミンソクに私の可愛いフィアンセを紹介しよう」



2人で応接の間に行くと、ソファにちょこんと腰かけているミンソクの後ろ姿が見えました。


「やあミンソク、待たせたかな」


声をかけると、くるっと振り向き


「やあクリス、久しぶりだね

今日は偶々 うちの隊が王宮の警護でこちらに来ていたから、ちょっと抜けさせてもらって挨拶しに寄ったんだ」


目をクリクリさせて答える様子は、まるで小動物のような愛くるしさで、昔と何も変わっていないな...とクリスは思うのでした。
クリスとミンソクは、従兄弟同士であると同時に、幼なじみでもあります。


しかし、そんな愛くるしいミンソクですが、実は陸軍所属の近衛隊の隊長という硬派な職に就いているのです。
近衛隊は、主に王宮の警護やロイヤルファミリーの護衛などを行います。
そのため、近衛師団に配属される者は家柄、成績、容姿などが重視され、陸軍の中でも選りすぐりのエリートが集められた部隊なのです。



「タオ、ミンソクは近衛隊長なんだよ」


「わぁ、お若いのに隊長だなんて、凄いですね」



ミンソクは伯爵家の子息で、一族は代々軍の重要なポストを歴任してきている家系です。
現在ミンソクの父は、軍の司令部のトップです。
そのため、ミンソクも若くして近衛隊長に就任し、その後順々に軍の重要なポストを経験していくことになります。



「ところで...
そちらの可愛い方、紹介してくれないの?」


「ああ、そうだった!

ミンソク、こちらは私の婚約者の ファン ズータオ
タオ、こちらは私の従弟の...」


「ミンソクです、初めまして!」


「初めまして
お目にかかれて光栄です」


タオちゃんは ミンソクにもカーテシーでご挨拶しました。



「ははは、本当に可愛らしい子だね
結婚したらタオ君も僕の従弟になるのだし、末永くよろしくね」


「こちらこそ、よろしくお願いします!」



応接の間にはお茶とお菓子が用意され、3人で和やかに雑談していると、兄王子の1人が通りがかりました。


「お、クリスにお客って、誰かと思ったらミンソクが来ているのか!」


ミンソク〜可愛い〜と言いながら、まるで猫に戯れるように ソファの後ろからギュウギュウと抱きついてきました。


「あはは、王子は相変わらずスキンシップが激しいですね」


ミンソクは、されるがままで平然としていますが、


「兄上、ミンソクが困っているじゃないですか...」


クリスは、いつまでもミンソクを離さない兄に、呆れ顔で窘めます。


「いいではないか、ちょっとぐらい...

ところでミンソク、今日は王宮の警護の日なのか?」


「はい、王宮の警備体制やシステムに問題はないか、細かく確認しているところです。」


「やはり、あの噂は本当なのか?」


「兄上、あの噂とは?」


「なんでも、最近話題の大泥棒が、我国に潜伏しているという噂なんだ」


「話題の大泥棒?もしかして、最近よくニュースで見かける怪盗Lの事ですか?」


「そうそう、その怪盗Lが来ているらしいんだよ」


「王宮の所蔵品が狙われているのですか?」


「まだ狙いは分からないんだけど、怪盗Lは主に美術品や宝飾品などをターゲットにしているからね
インターポールからも、王宮や美術館の警備を強化するようにと要請がきて、それで近衛隊も対応に追われてて...

って、ちょっと喋りすぎました...ここだけの話でお願いしますね」




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