執事シリーズ

□タオちゃんの執事B
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ピンポーン

ファン家に突然の来訪者

この人物が、タオちゃんとクリスの間に波紋を巻き起こす…




「タオ様、お客様がお見えになりました。

応接室にて、お待ち頂いております。」

メイドがタオちゃんを呼びに来ました。


「ん?どなた?」


「ご主人様からのご紹介だそうです。」


「えー、何も聞いてないけど…」


「タオ様、私も一緒に面会いたしましょうか?」


「うん、そうして…」


クリスに付き添われ、タオちゃんが応接室に行くと、1人の青年がソファーに寛いだ様子で座っていました。


「お待たせしました、タオです。父のお知り合いの方ですか?」


「初めまして、私は…」


「レイ!?」

顔が強張り、かなり慌てた様子のクリス…


「あの…?クリスともお知り合いなんですか?」

とってもキレイな青年だけど、どこか艶かしく妖しい雰囲気が、只者ではないと感じられます。


「ふふ…いいえ、私はクリス王子と同郷なので、もちろんお顔は存じ上げておりますが…

初めまして、クリス王子…お目に掛かれて光栄です。

改めまして、タオ様、こんばんは。

私の名前はレイ。

お父様から依頼されて来ました、夜伽師です。」


「よとぎし?」

タオちゃんには、「よとぎし」の意味が分かりません。


「はい。」


「よとぎし…って、何をされる方なんですか?」


「ご結婚前の方に、ベッドでのお作法などをご指導するのが、私の仕事です。」

ニッコリと笑顔で答えるレイ


「主に、ご婚約などをされたご子息のために、親御様からご依頼される事が多いのです。」



クリスの国では、上流階級の子弟は結婚が決まると、夜伽師を依頼することが当たり前になっています。
王族や上流階級の子弟らは、なかなか自由に恋愛できない環境なので、どうしても経験不足になるため、このような習慣が常識となっているのです。

そしてレイは、国内では有名な、超一流の夜伽師なのです。
色白で美しい顔立ち、物腰は優しく、しとやかで品があり、一見すると、育ちのいい青年と言った感じ。
それでいて、ベッドの中では凄まじいばかりの色香と最高の技巧とで、どんな相手でも必ず満足させ、虜にしてしまうという魔性の持ち主
しかし、レイを呼ぶためには、然るべき紹介者と、高額な報酬が必要なため、上流階級の間でさえ高嶺の花なのです。

そして、彼の口が固いという点も、とても信頼されている点のひとつです。
夜伽で関わった相手と何処かで会っても、必ず「初めまして」と挨拶するのがレイの流儀です。
そのため信頼も厚く、王族からも贔屓されています。
クリスに「初めまして」と挨拶したのも、そういう事情からです。



「え…でも、そんな急に、ぼく困ります…」

と、タオちゃんはレイに言ってから、ちらっとクリスを見ました。
その様子をレイは見逃さず、その視線の意味に、すぐにピンときました。


「申し訳ありませんが、私の契約はキャンセルできないのですよ。既に報酬も頂いておりますし…」


「でも…」

困惑するタオちゃん。
タオちゃんの国では夜伽師を呼ぶ習慣は無いし、純粋なタオちゃんにとっては、愛する人以外とエッチするなんて、ちょっと考えられないのです。
しかも、目の前にクリスが居るのに、他の人となんて…

クリスも、タオちゃんが夜伽だなんて、突然のことにオロオロしています。
レイといえども、タオちゃんに自分以外の手が触れるなんて絶対に嫌です。


2人の戸惑っている様子に、レイはクスクス笑いながら

「困りましたね…

分かりました。タオ様が無理という事でしたら、代わりにクリス王子でも構いませんよ?」


「な、なんで、そうなるんですか…」


クリスは複雑な気持ちです。

クリスは、レイをこのまま帰せない事は分かっています。
恐らく、ファン氏にレイを紹介したのは、クリスの父である国王なのでしょう。
何もしないで帰すことは、レイに恥をかかせることになり、紹介者である国王の顔に泥を塗る事になってしまう…


「クリス王子がブラッシュアップされれば、それは、タオ様のために活かされますでしょう。

ふふ…まだご存じでないような事を、教えて差し上げますよ…」

レイがイダズラっぽく妖しく微笑みながら、クリスを見つめる。
クリスは、そんなレイから目が逸らせません。



「あの、さっきから気になっている事があるんですけど…」

2人の間に妖しい気配を感じたタオちゃんが、突然話しを切り出しました。


「本当は、2人は知り合いなんじゃないですか?

もしかして、クリスもレイさんに…?」


レイは顧客情報にに関しては、一切話せないので、何も言わずに困った顔をしています。
クリスはため息をつき、観念して口を開きました。


「そうです…レイはかつて、私の夜伽師でした。」

隠しても仕方ないと思い、クリスは白状しました。


「私の国では、王族は婚約すると、みな、夜伽師を呼ぶのです。

その時に、私に全てを教えてくれたのが、レイなのです。」


やっぱり…と呟いて無意識に指を噛むタオちゃん。
昔の事だし、仕方のない事とはいえ、若干の不快感があります。
タオちゃんが初めて感じる、嫉妬という感情かもしれません。



そして、クリスは過去の記憶を遡る…

タオと婚約が決まった数日後、父である国王に呼ばれて応接の間に行くと、そこにレイが居た。
夜伽の習慣は知っていたので、何の疑問も持たず、そのままレイに導かれて、クリスは一から教えを受けたのだった。

キスの仕方だけでも、何種類も教わった。

唇を挟んでその感触を味わうキス、
舌を絡めたり、お互いの舌を出し入れしたり、舌に吸い付いたり…

それから、手取り足取り、セックスについて、実際に身体を使いながら一から教わったのだ。
性技の勉強などと言葉にしてしまうと無粋だが、クリスにとっては目眩がしそうな程、全てが刺激的な経験だった。

元々の契約は3日間だったが、国王に頼んで、5日間に延長してもらった。
覚えたいことが色々あるから…という理由だったけど、本当はレイの身体に夢中になっていたのだ。
タオのためだったはずなのに、いつの間にか、目的が自分の欲に変わっていた…


その頃、タオはまだ子供だったから…と心の中で言い訳をしつつ、レイとのことに関して、クリスはどこかタオちゃんに対して罪悪感があるのです。

それなのに、…今、再び肌を合わせる事になったら、あの時、レイに溺れかけた記憶が蘇って、自分が何か変わってしまうのではないかという恐怖心を感じつつも、心の何処かで期待してしまい、ゾクリとする感覚が背中を伝ってきます。



「ではクリス王子…」

と、レイがソファから立ち上がったところで


「待って!」

タオちゃんも立ち上がりました。
そして、レイの手を引き、


「やっぱり、ぼくが…」

と、レイを連れて、自分の寝室に行ってしまいました。


一瞬の出来事に、とり残されたクリスは、呆然としたまま立ち尽くしていました。
我に返った時には、もう2人はタオちゃんの寝室へ消えていました。


レイは、元々タオの夜伽のために来た訳だし、クリスが文句を言う筋合いもないので、仕方なく自分の部屋に戻ったものの、落ち着きなく部屋の中をウロウロしていました。
立ったり、座ったり、ドアの所まで行ったり、戻ったり…
一晩中、そんな感じで、殆ど眠ることは出来ませんでした。





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