執事シリーズ

□カイきゅんの執事A
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〜語り手:ギョンス〜


もともと私は政治家を目指すべく、議員主催の勉強会で、仲間たちと政治や経済について学んでおりました。

勉強漬けだった私の、唯一の楽しみは、歌を歌うこと。
仲間たちとカラオケに行った時に、みんなに上手い上手いと褒められ、ついには忘年会の余興にまで引っ張りだされてしまいました。

忘年会と言っても、党内の色々な勉強会が合同で行う、ちょっとしたパーティー並みの規模なのです。
議員の先生たちも、ご夫婦同伴でご出席されます。
そこに先生の奥様もいらして、私の歌うところをご覧になっていらっしゃいました。


出番が終わって、仲間たちと歓談しているところを、奥様に呼び出されました。


「あなた、すごく歌上手ね〜!

政治家になるなんて、勿体ないくらい。」

奥様は元歌劇団のトップスターです。そんな方からお褒めいただき、大変光栄です。


「ねぇ、政治家になる前に、ちょっと人生の寄り道してみない?」


「どういう事ですか?」


「うちの息子の、執事をやってみない?」


「はぁ?」
突拍子もないオファーに、目を見開いて驚いてしまいました。

横で聞いていた先生が


「ママぁ、ダメだよ〜、ギョンスくんは、うちのエースなんだから…」
と仰って下さいましたが、奥様がひと睨みしたら、黙ってしまわれました…



「うちの子、バレエをやっているんだけど、なかなか筋がいいのよ〜

踊りも歌も、リズム感って大事でしょ?あなたと息子だったら、相性が良さそうだわ。」

先生に救いを求めて視線を送りましたが、目を逸らされました…
どうやら、奥様には逆らえない夫婦関係のようです。



一度、息子のカイ様に会ってみてから決めて欲しいと言われ、奥様に連れられて、カイ様がレッスンを受けているバレエ教室に行きました。
既にレッスンが始まっており、ちょうどカイ様がソロで踊り始めるところでした。


レッスンだと思って、甘く見ていましたが、カイ様の踊りが始まった途端、教室内にいる人全てが、動きを止めて見入っています。
そこだけ時間が止まってしまったかのような静寂と緊張感
そんな空気の中で、カイ様も、レッスンとは思えないくらい、真剣に踊っていらっしゃいました。

そして私は、カイ様の華麗なステップ、ターン、指先、眼差し、そして飛び散る汗にさえ、目が奪われてしまいました。
はい…一瞬で恋に落ちました。



「どうかしら?うちのカイの執事、引き受けてもらえる?」


「はい。謹んでお引き受けいたします。」


「うふふ、良かったわ。

あ、カイー!こっちこっち!」



「お母さん、来てたんだ!

あ…こちらの方は?」


「カイの執事をやってくれる事になった、ギョンスさんよ。」


「ギョンスです。カイ様、これから、よろしくお願い致します。」


「あ…よろしくお願いします…」



そうと決まってからは、必死に執事の勉強をして、無事に執事の資格試験に合格しました。
ただし、執事として重要なのは、知識だけではなく、お仕えするお坊ちゃまとの呼吸が合うかどうかです。


常にカイ様に寄り添って、カイ様だけを見つめて…カイ様だけを…



〜語り手:カイ〜


初めてギョンスを紹介された時は、小さくて目がクリクリした人って印象だった。
お父さんのの関係者って聞いたから、執事と言っても、家庭教師に毛の生えた程度なんだろうと、あまり期待していなかった。

だけど、執事になったギョンスと一緒に生活するようになると、彼は、あまりにも自然にぼくの日常に溶け込んでしまった。
ギョンスが雑用で出掛けてしまって側にいないと、帰ってくるまでソワソワして落ち着かないくらい、いない方が不自然に感じてしまう。

レッスン中、水を差し出されて、初めて自分が喉が乾いていることに気付いたり…
レッスン後にマッサージしてもらうと、漠然とダルかった部分が無くなってスッキリしていたり…
何だろう、言葉に出さないのに通じてしまうというか…呼吸が合う?
そう!呼吸が合うんだ!




〜語り手:ギョンス〜


カイ様は今、ローザンヌ国際バレエコンクール目指して頑張っていらっしゃいます。

先生に、表現力のことでアドバイスを受けたようで、今、恋愛について関心をお持ちのようです。
カイ様は、小さな頃からバレエ一筋でいらっしゃったので、今まで恋愛をされた経験が無いようです。

今後、カイ様が恋をするなら…お相手は、どんな方なのでしょう…
もちろん、応援して差し上げたいのですが、なんだか心がザワザワします…



下校の時間になり、カイ様をお迎えに向かうと、カイ様はお友達と楽しそうにお喋りしていました。
そして、タオ様の執事のクリスさんと何か話していたかと思うと、徐ろにクリス様がカイ様の頭を撫で、カイ様は恥ずかしそうにしながらも、何だか嬉しそうな顔をしているではありませんか。


「あの…カイ様、どうかされましたか?」


「何でもないよ!ギョンス、帰ろう!」

と、カイ様は慌てた様子で、私を引っ張って車に向かいました。
見られたくない所を、私に見られてしまった…という感じなのでしょうか。

何だかイライラしてしまって、

「カイ様、何か悩みがあるのでしたら、クリスさんではなく、私にご相談下さい。

私がカイ様の執事なのですから…」

と言ってしまいました。
執事として、感情を出さないように気をつけたつもりですが


「うん、ごめんね…」
と、カイ様は落ち込まれたご様子…

カイ様は何も悪くないのに、私の勝手な嫉妬心で八つ当たりしてしまいました…
自分の至らなさに反省です…



バレエのレッスンで、カイ様は先生に、表現力に深みが出てきたと、褒められていらっしゃいました。
やはり恋のお相手は、クリスさんなのでしょうか…

私から見ても、クリスさんは素敵な男性であることは認めます。
辛いですけれど、カイ様のためには応援して差し上げたい…
でも、クリス様の愛が、タオ様だけに注がれている事は、カイ様もご存知のはず。

カイ様は、お辛い恋をされているのですね…
そして、私も…



カイ様のお誕生日が近づき、奥様はバースデーパーティーの準備に取り掛かられています。
招待客の出欠確認や、ケーキやケータリング、室内装飾の手配など、事務的なことは、専門のスタッフにお任せになっていらっしゃいますが、余興の部分は、毎年、奥様の仕切りで行われています。

実は、私も歌を披露するようにと言われておりまして、サプライズ企画のため、密かに奥様と一緒に練習しておりました。
カイ様、喜んで下さるかな…?



そしてパーティー当日
まさか、余興のトリとは思わず、大変緊張いたしましたが、カイ様のために心を込めて唄い上げます。

カイ様、この世に生まれてきてくれて、ありがとうございます
カイ様が、ずっとずっと幸せに過ごせますように…
そして…カイ様、心からあなたを愛しています…


歌に込めた、そんな思いが伝わったかどうかは分かりませんが、終わった後、カイ様が黙ってハグして下さいました。
思わず抱き返しそうになりましたが、彷徨った手は、カイ様の背中をトントンして誤魔化しました。


「カイ様、お誕生日おめでとうございます。」



これからもずっと、常にカイ様に寄り添って、カイ様だけを見つめて…カイ様だけを、愛し続けます。



(完)

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