anniversary plan

□慌てて離した手
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夕日がだいぶ傾いてくると、グラウンドが真っ赤に染まっていく。窓からぼんやりその景色を眺めて時計を見ると、あと10分足らずで追試の終わる時間だった。

がらんとした人気のない教室には、私以外にもう一人だけ、人影がある。机に小さいクッションを置いて枕代わりにするその人は、いつ見ても大抵寝てる。でも、放課後こんな時間まで寝てるのは、さすがに見たことがない。フィンと帰る前に起こしてあげた方がいいかなと、私はそっと肩を揺らして声をかけた。

「おーい、もう日が暮れちゃうぞー」
「………んー…」

うん、なかなか強敵だな。友達たちがあきらめてほっぽりだしちゃう理由がちょっとだけ分かる。

「お客さん、終点ですよ!」
「…えっ!?終点!?」

がばっと起きた彼は本気で焦っていて、どうやらこの人にとっては、推測通り電車で寝ちゃうのもよくあることらしい。かなり心臓に悪い起こし方してごめん。

「…あれ?マリア?」
「ごめん、ごめん。起きないからつい!」
「なんだ…あー、びびった…」
「あはは、それにしても一瞬で起きたねー!」
「うるせーな!くそ、ちょっとこっち来い!」
「わっ…」

ぐい、と腕を倒れこむまで引かれて、なんとかイスの背に手をついた私に、彼は意地悪く笑ってわき腹をくすぐってきた。くすぐられるなんて久しぶりのこと過ぎて私の腕からは力が抜けて、笑いながら私は彼の胸に顔を預けた。

「あははっ…は、ちょっと!…ふふ、くるし…」
「もうあんな起こし方すんなよ!ちゃんと返事しろ!」

返事しろって言うならくすぐるのやめてよ!って言いたいけど笑いすぎて息すら吸えない。なんとかやめて、と言おうと顔をあげたとき、手をうしろに引かれた。目の前の彼はきょとんと固まっていて、どうやら私の手を引いたのは他の人らしいと振り返るとものすごく人相の悪いフィンがいて、見慣れてるはずの私ですらちょっとびびった。

「フィン…、なんか機嫌悪い…?」
「…帰るぞ」

無理に引かれた手は痛かったけど、むっとしたまま歩き出したフィンが気になってそれどころじゃなかった。
好きだって気づいちゃったから、こうして手を繋がれるのが、すごく嬉しい。フィンは機嫌が悪いけど、私は逆に上機嫌になってしまう。そんなことは悟られないように、そう思ってにやけそうになるのをなんとかこらえた。

校門を出て、ぴたりとフィンは足を止めて。くるりと向き直ったフィンは、一度口を開いて、そして少しだけうつむいてから、もう一度口を開いた。

「さっきの…、あいつ何だよ」
「………何って、なに?」

いや、ごめん。分かんないよ。何を聞きたいのか分かんないよ。言葉につまるフィンに私がひどいことをしたみたいになってるけど、分からないものは分からないんだから仕方ない。

「おまえは、…あいつが好きなのかよ」
「………えっ?好きだけど」

友達として、そう言ったら、一瞬絶句したあとフィンは静かに息をついた。
え、なにこれ、期待しちゃうんだけど。

取られたままの手に力を込めると、自分から繋いできたはずなのに、フィンは慌てて手を離した。夕焼けを浴びて赤く染まる空と一緒に、フィンも赤くなっていく。でも、それは夕焼けのせいじゃないって、分かるよ、さすがに。
 

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