anniversary plan
□不安を消したかったからで
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ホームには大抵俺の他に数人いることが多いが、シャルとマチの二人は大概いる。そしてもちろんマリアもいるわけだが、マリアはマチにべったりと懐いている。マチが本気で嫌がればやめるが、それまでは暑苦しいほどへばりついているのが日常的な風景なわけだが。今日は違った。
「シャル!ねえねえ、かまってー」
「わっ…、なに、どうしたの?」
シャルにうしろから抱きつくそれは、普段マチにしているのとまるで遜色がない。驚きつつも仕方ないなと受け入れるシャルに、マリアは目を輝かせた。
「ありがとー、シャル!今日ね、マチが出掛けちゃっていないの!」
「なるほどね。それで俺のとこに来たんだ」
マチが出掛けるなんてことは、よくあることだ。いつもなら俺のところに来るはずが一体なぜシャルなんだ。
佳境に差し迫り先ほどまで集中して読んでいた文章が、欠片も頭に入ってこない。
それに、なぜシャルにはあれほどくっつくんだ。俺にはそんなことをしたことがない。
「ねえ、私の部屋で遊ぼ?お昼ごはん作ってあげるー!」
腕に抱きついて上目づかいでシャルを見上げるマリアを見て、俺の足元の地面が割れた。無意識にオーラを込めていたらしい。
「あー…っと、そうだ、俺もちょっと用があったんだ。ごめんね、マリア」
「えっ!?やだ、シャルがいなくなったらクロロと二人に…」
慌てて口をつぐんだマリアはうかがうように俺にびくつきながら視線を送ってくる。そんな様子を気にもせずに、シャルは軽く手を振って出掛けていった。
「俺と二人きりになるのがそんなに嫌か」
異様に静まりかえった部屋で異様な程大きく響いた俺の声に、マリアは身をすくませた。この間マフィンを渡しに来てから、何かがおかしい。俺のことを避けているし、話してもやけによそよそしい。
「嫌なら部屋に戻れ」
思ったよりもずっと冷たく響いた声に自分で驚いた。どうやら俺は自覚している以上にこの状況に嫌気が差しているらしい。
「…クロロ」
そんな声で呼ぶなよ。俺がどれだけ我慢してるか、思い知らせてやりたくなる。
仕方なく本からマリアに顔を向けて、俺にとってはあまりにも突然すぎる涙に手元から本を落としそうになった。
「なんだ…、どうしたんだ?」
静かに、マリアが逃げないように近づいて、目元の涙に指先で触れると、マリアは躊躇いながら俺の手を取った。
「クロロなんか…っ」
俺をしっかり見据えていった言葉はそこで途切れて、その先の言葉は簡単に思いつく。押さえようのない気持ちに駆られて、俺はマリアの手をきつく握り返した。