anniversary plan
□言葉にならなかったからで
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そうだな。つまり、そういうことだ。
例えどれだけ欲していようとも、手に入れることで壊れてしまうのであれば、何も意味がない。現状のままでも悪くはない。そういうことだ。
楽しそうな弾んだハミングが聞こえてから近づいてくる、これもまた弾んだ足音。マリアがならすノックの音は、いつだって弾んでいる。返事をかえす前に開けられたドアと、歌うようにクロロと呼ぶ声は、とても同じ年とは思えないほど子どもじみていて、そしてそれこそが俺の気持ちを横暴なほどに揺さぶる。
「今日は何だ」
「なんだと思う?」
質問に質問で返してくるマリアに本から顔を上げて視線を向ければ、俺のかけているイスに頬杖をついて柔らかく微笑んでいる。こうして時たま見せてくる大人びた笑みが、不釣り合いなはずなのにやけに綺麗で、それは全くわずらわしい。
「チョコレートの焼ける香がしていたな」
「食べたい?食べたいよね!」
早く来て、と本を持つ俺の手を取って、俺の意見や意思など気にせずにマリアは歩き出す。いつだってこいつはこうだ。
俺はまたこうして、わずらわしい気持ちをもて余す。
まぎらわすようにマリアに取られた手に力を込めれば、不釣り合いな笑みとともに、マリアはさらに俺の手をきつく握った。
そうして、俺のわずらわしい気持ちは、また余計にわずらわしくなった。