短編

□夏だから
1ページ/1ページ

こんなにいい天気なのにもったいない、バレないようにため息をつきながら思う。インドア派って言うと聞こえはいいけど、実際のところ一歩間違えると引きこもりみたいな状態だったりする。私も家の中で静かな時間過ごすのは好きだけど、コーヒー飲んだり、好きなだけ音楽聞いたり本読んだり、映画に感動して泣いてみたり、だからクロロの気持ちは分かる。

「……それでも、十日も家から一歩もでないのは…どーなの…?」
「それは、俺への不満か?」
「…………読書中は、私の話聞こえてないんじゃなかったの」
「意外だな、過去を引きずるタイプだとは思わなかった」

無駄にいい頭をこんな下らない会話にまで使役しなくて結構、とか言いたくなる具合だ。すごく小声で言ったのに…前にピクニック行きたいって言ったのが聞こえなかったのは、きっとクロロにとって都合の悪い話だったからだ、そうに違いない。

「行きたい場所があるのか?」

少しも私に目を向けずに本のページを繰りながら聞いてきたクロロ。先日の失敗を鑑みて、今度こそ妥当な選択肢を選ばなければ…!十日振りの外出ともなると俄然意気込んでしまう。

「そういえば…、王立博物館の特別展示が」
「王家に代々伝わる歴史書か」

パタン、と、本の閉じられる音が小気味良く響いた。扱いやすい子供みたい。自然と、笑ってしまう。不思議そうな顔のクロロに、クロロと出掛けられるのが嬉しくて、と、返しておいた。そんな他愛ないことでお前が笑うならたまに出掛けるのも悪くないな、そう言いながら急に両腕で抱き上げられた。急すぎて何も言えずにクロロを見つめていたら、心臓が止まりそうな破壊的な笑顔を向けてくれて、恥ずかしかったり苦しかったり嬉しかったりよく分からなくなって私はクロロの鎖骨より上の辺りに吸い付くようにキスをした。数秒たってから顔を離して、赤く色づいたのを確認して満足気に頷いてみた、よし。

「………一体何が、よし、何だ」
「クロロがかっこよすぎるから。なんか急に…出掛けたら大丈夫か心配になった、のかな…それか、最近暑くなってきて夏っぽくなったから、浮かれてるのかも…?」
「夏だと、浮かれるのか」
「……うん、夏だから浮かれてるのかも」
「なるほど、俺もたまには浮かれてみるか」

落ちてきた髪と唇、それに吐息。私の胸元に顔を寄せるクロロを上から見ると、なぜかいつも泣きたくなってしまう、幸せだから。クロロはキスマークをつけたあと、必ずもう一度そこに愛しそうにキスを落としてくれる。その、二回目のキスの柔らかさが大好き。伝染するみたいに、私の気持ちが移ったらいいのに。指先が絡めて繋がれた手を眺めながら、私はもう一度、私がつけたクロロのそこにキスを落とした。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ