短編

□恋冬
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真っ黒な毛糸は肌触りはとてもいいけど。編んでそれなりの長さになってきてもあんまり暖かそうには感じない。白とか、クリーム色とか、そういう色にしたら、編んでる時も暖かい気分になるんだけど、仕方ない。
私のじゃないわけだから。

テーブルのマグカップに入ったココアはもう熱くない。それでも口にすると、やっぱりなんとなくあったまる。少しだけ体を伸ばしてから止めていた手を動かそうとして、ソファがギシリと音をたてた。顔をあげる前に、私は後ろからすっぽり抱きしめられていた。

「……フェイタン?…どうかしたの?」
「…別に、眠いだけね」
「え…眠いなら、ベッド行けばいいのに」
「…うるさいよ」

私の肩に額をすり寄せるようにしてくっついてくるフェイタン。跳ねた髪が首筋をくすぐってきて、ちょっとだけ抵抗してみたけど。少しも離れてくれない。変なフェイタン。

「フェイタン、寒いの?なんか猫みたい」
「………何、やてるか」

編み棒に添えてる手にフェイタンがちょっとだけ乱暴に触れてきて、とりあえず機嫌が悪いことだけは分かった。編み物をしてるからかは、まだ分からないけど。

「マフラー編んでるんだよ、寒くなってきたし」
「……こないだも別のもの作てたね。あれは何だたか」
「セーター。一昨日出来上がったから、今度はマフラー編んでるの」
「……セーターは、どこにやたか」
「え?しまってあるけど…なんで?」
「出来たのに、なぜ着ないか。新しい服、おまえいつもすぐに着るよ」
「えっ、だって私のじゃないもん」
「……………………」

黙りこんだフェイタンは、私の肩に顔をのせてるから見えないけど、なんとなく更に不機嫌になった気がした。手を離してくれないし、むしろちょっとだけ力が込められた。

「誰に…、誰のセーターか」
「…………え」

もしかして…これはもしかして…、フェイタンが妬いてる…かも。

「……フェイタン」
「なにか」
「そうじゃなくて…だから、フェイタンのだよ。セーターも、マフラーも」
「…………は?」

ふて腐れるみたいに私に寄りかかっていた頭が持ち上がって、フェイタンは後ろから、私とマフラーを交互に見つめて。それから少しだけ、思案気にうつむいた。

「フェイタン…?」
「…なぜ、セーターすぐに渡さなかたか」
「マフラーとお揃いで渡そうと思ってたから…なんとなく…」
「………そか」

そう一言だけ呟いたフェイタンは、やっぱりまた私の肩に額をすり寄せてきて。今度は、後ろから優しく抱きしめてくれた。編むのに邪魔にならない程度に、柔く、でもお互いの体はぴったりとくっつくように。
なんだか嬉しくて私が少しだけ笑うと、フェイタンは腕に力を込めてきて。それからマフラーが出来上がるまで、私たちはそのままだった。

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