中編

□堕ちた罪は
1ページ/1ページ

かぐや姫の屋敷に駆け込んだときには、夕闇が終わりを告げようとしていた。月がうっすらと姿を現し始めていて、かぐや姫も、月を眺めている気がした。

俺にまたお説教をしようと追いかけてくる腐乱苦輪の声を聞きながら周囲に目を走らせて、そしてすぐに俺の視界は輝いた。安堵と同時に一瞬抜けそうになった体の力は、俺ですら呆れるかぐや姫の姿にわずかに笑ったことで、戻ってきた。また、釣殿の端近に、いるなんて、そんなことをする姫はかぐや姫だけだ。

綺麗に整えられた庭を派手な音を鳴らして駆けて、それでもかぐや姫は月を見上げていた。儚すぎる横顔は綺麗にすぎて、気づいたときには、倒れ込むようにかぐや姫に触れていた。

「……っ、どこにも行くな!」
「中将様…?」

わずかに驚いたかぐや姫は、逃げるそぶりも困った表情も浮かべなかった。いつもと変わらず、その体は、淡く輝いていた。

「おまえは…人じゃ、ないんだろ?」
「……………」

気づいてたんだ。
初めて会った、あの日から。
ただの姫が、飛んできた烏帽子を直接渡しに来るなんて、ありえない。無防備に釣殿の端近にいるだけでなく、垣根のすぐそばまで来て、直接言葉をかけてくるなんて。そして一瞬で、釣殿から垣根まで来ていたことも。

「なあ、俺は…おまえが何者だろうと、どうだっていいんだ。……ただ、俺のそばでいつもみたいに…無邪気に笑っててほしいんだ」
「……中将様、私は」
「なあ、おまえの本当の名前、聞かせてくれ」
「……○○、と申します」
「○○」

抱きしめた体は、壊れそうなほど華奢だった。それでもきつく腕に力を込めて、抱き寄せて、落とした口付けは、一瞬だけ○○の体を震わせた。
ぎこちなく唇を離して見つめた○○は、俺を見つめたまま、何も言わなかった。夜風が辺りを吹き抜けてもお互いに見つめあって、気づけばその白い肌にそっと指先で触れていた。ほんの少しだけ覗く、白い白い、首筋に。俺の指先が触れた瞬間、○○が俺の胸元を弱々しくつかんできて、それは急激に俺の思考を狂わせた。抱き上げて、一番近くの部屋に運び入れて、そうしてその肌にかぶさった。何も考えずに、ただ、貪欲に。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ