中編

□転がり出した運命
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紙にうずもれている時間は、もう一刻を過ぎようとしていた。書けども書けども気に入らないし、書き出しすらまとめられなかった。そんな下らない時間を、本当なら会いに行って、しまいたかった。

ここのところやけに頻繁に現れる物の化は、並みの陰陽師じゃとても太刀打できないものばかりだった。援護、という名目で腑餌異端に付き合わされる俺も、物の化に振り回されてばかりで全く時間の取れない日々が続いて、気づけばかぐや姫に最後会ってからかなりの日数が過ぎていた。仕方なく文だけでもと書いてみても、当然だが、うまく書けるわけはずもなかった。

「あー…、会いてえなー…」
「うだうだ言ってねえで会いに行けよ、童貞」
「親父!?なんだよ、うるせえよ!」
「お前がそうやっていじけてる間にもな、かぐや姫の元にお前よりずっといい男どもが通ってんだぞ。もうちっと危機感てやつを持てよ。妙な噂も…」
「………噂?」

気まずそうに顔をそらした親父が言うには、かぐや姫がしつこく通ってくる貴族たちに無理な要求をした、ということだった。話にしか聞いたことのない物品を持ってくるように言い、中には重く床に伏してしまったものもいるらしい。そしてそれを聞いた帝が、かぐや姫に大いに興味を示している。そういうことだった。

「なんだよ、それ。どっからどこまでが本当なんだ」
「さあな。まあ、無理難題突きつけるのはともかくだ。お前、帝が出てきたら、もうかぐや姫の元には通えなくなるんだ、分かってるのか?」
「…………かぐや姫に?」

月夜に見た、光輝くかぐや姫。
あの、無邪気に笑う、かぐや姫に。
もう、二度と、会えない?



「…親父」
「あ?なんだ」
「俺の仕事を代わりに引き受けてくれ。あとでたっぷり埋め合わせしてやるから」
「…母上のお小言も頼んだぞ」

それだけは勘弁してくれ、そう思うよりも早く、屋敷をあとにしていた。お小言なんざどうでもいい。

誰かのものになるかもしれないなんて、あたり前に考えつくことだったはずだ。ただ、気づかないふりをしていただけだったんだ。かぐや姫が、俺以外の元に、行ってしまうなんて。

手離したくないんだ。
あの日、あの月夜に、出会ったあの瞬間から。俺は、俺の全てをかけて想ってたんだ。ただ、かぐや姫だけ、ただひとりを。
 

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