中編

□粗暴な男とかぐや姫
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煌々と輝く満月の夜だった。風だけがやけに強く吹き荒んで、他の物音はまるでない静かな夜。
女が夜空を見上げていた。無防備にも、釣殿の端近にかけて。

垣根はなぜか無惨に所々穴を開けられていて、そのせいで女が目に入った。その光輝く姿はただの人とは思えないもので、気付けば牛車から飛び降りていた。

風に煽られた黒髪はたなびき、月明かりと見間違うほどの輝きに包まれていた。…いや、包まれているのではなく、女自身が、輝いていた。
それで思い当たる節が頭によぎった。
おそらくだが、まず間違いなくあの女が、大いに噂になっている、かぐや姫だろう。

そう思えば確かに綺麗だ、妙にすっきりした気分で納得して牛車に戻ろうと踵を返したとき、烏帽子が風に吹かれて高く舞い上がった。まずいと手を伸ばしたときには、すでに垣根を越えていってしまっていた。牛車に乗っているときについ窮屈で脱いでいたのが仇になって、急いでかぶったときに結うのを忘れていた。

「…ついてねえ、割と良い物だったんだが」
「あの…もし…」

闇夜から突然聞こえたか細い声に反射的に身を固まらせた。が、すぐにまた、もし、そこの方と高い女の声が背後から聞こえてくる。いぶかしげに振り向くと、扇で顔を隠した、光を放つ女、かぐや姫が垣根越しにすぐそばにいた。

「あの…烏帽子を、落とされませんでしたか…?」
「…あ、ああ」
「こちらの烏帽子は、あなた様の物では…」
「!……わりい。…じゃねえな、カタジケナイ…」
「ふふ、そのように畏まるような者ではありませんから…慣れている言葉で、お話ください」
「いや、そういうわけには…そうだな、じゃあ、お前も適当に話してくれよ。それならいいだろ?」

気づいていた。
本当は、もう、この初めて出会ったこの瞬間から、気づいていたんだ。
お前が、ただの人、ただの姫じゃないことに。

そして、その無邪気さに、惹かれていたことも。
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