中編

□空想と現実の狭間
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さらっとした朝だった。冷たい風が控えめに吹いていて、太陽がそれに対抗して、弱々しい陽射しを降り注いでいた。やけに、寒々しい朝だった。

強い吹きすさぶような風が、通り抜けた気がした。その場所一帯と俺の温度を急激に下げて、ざあ、という音をやたら耳に残して。

駆け出してつかまえた手は、最後に触れたときと同じ。冷たすぎる俺の手には、やけどしそうなくらい、熱かった。

「○○…」
「…………え?」

俺を見上げた瞳は、不思議なほど澄んでいた。それで、確信した。髪型は変わってしまっているし、学校に通うような制服を着ているけど、隣にいるのがどう見てもただの一般人の高校生でも、○○だ。絶対に、そうだ。何度も何度も、俺を救い上げてきた瞳を、それに何より、○○を見間違えるわけがない。朝から晩まで、毎日、思い返してきた○○と、目の前の女の子は瓜二つだ。

「○○…俺、ずっと待ってたんだ…○○が帰ってくるのを…」
「……え?あ、あの…どなた、ですか?」
「……俺のこと、分からないの?」
「すみません…その、たぶん…人違いじゃ、ないかなって…」
「そんなわけない。○○、そんなわけないよ。俺が○○を間違えるわけないから」

吹き抜けていく風に、○○の髪がさらさらと揺れていた。腰まであったはずの髪は、いつも風に吹かれると綺麗にたなびいてた。短くなってしまった髪は、仕方なく揺れているようにも、見えた。

「○○、そろそろ行かないと学校…」
「あ、そうだよね。…えっと、すみません…授業に遅れちゃうので…」
「……授業?高校にでも通ってるの?」

純粋な瞳を揺らして、○○は小さく、失礼しますとだけ言って。俺のことを一度も振り返らずにどこかへ行ってしまった。○○の言葉通りなら、学校に、授業を受けに。

久しぶりに再会した、俺を放り出して?

何かがおかしい気がする。
するけど、俺は○○が生きてて、そして俺のそばにいてくれれば、それでいいんだ。

○○の瞳。触れた手の温もり。さらさらと揺れていた髪。
全部、本物だった。空想の産物なんかじゃない。手を伸ばせば、触れられる。
会いたい。○○に、会いたい。
 

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