中編

□それでも愛していたかった
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携帯に打ちこむ文章はもうこれで十回目だ。何度も何度も打ち直して、送ろうと何度も思うのに、結局送信できない。そんな三日間は、私の気持ちなんかお構いなしに、私をどんどん衰弱させていく。

こんなに未練がましい自分は嫌なのに、そんなことはどうでもよくなってしまうほど、私はヒソカに惹かれてしまっている。あの日、あの夜に、もう終わってしまっただろうこの恋に、それでもすがりたい。

だから、怖くて怖くて、送れない。

ヒソカからはもう連絡なんて来るわけない。私からしなければ、きっと、絶対、終わってしまう。連絡しても、終わってしまうかもしれない。

カチカチ震える指先を、目をつぶって見ないようにする。触れる送信ボタンは、ずっと触れていたのに冷たい。私が冷えきっているから。
こんな弱い私を、ヒソカは好きになってくれない。私は、私にすら嘘をついて、強くなるんだ。

頭に一瞬浮かんだあの夜のヒソカを振り払うつもりで、私は送信ボタンを押した。詰めていた息を吐き出せば、肩が震えていた。メールを送るだけでこんなになるなんて、本当に私は弱い。でも、メールの中の私は、違う。

突然震えた携帯に、あまりにも驚いて放してしまう。手からベッドに落ちた携帯は、もう二度震えて、メールが着たことを告げていた。

ヒソカだ。絶対、そう。

今すぐ見たい衝動と、内容を想像して恐怖にかられる気持ちに、私は指先で携帯に触れて、携帯が持つ熱に、その熱それだけに身をすくめるほど驚いて、膝を抱えてわずかな時間泣いた。

恋なんて苦しいだけなのに、胸は痛いし頭は馬鹿みたいになるのに。ヒソカは移り気で、いつ捨てられるかも分からないのに。
それなのに、どうして恋に落ちてしまうんだろう。

点滅する携帯の小さな光は、涙でにじんでやけに悲しく寂しく主張していた。それはさらに悲しみを煽って、そして、それでも私に少しだけ勇気をくれた。
 

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