中編

□素直に、なんてばかげてる
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真っ白なテーブルに頬杖ついて眺める窓からの景色は、見てるだけでうだるような暑さが伝わってくる真夏のそれで、目を細めてみても容赦なく照りつける太陽は痛くなるくらい眩しい。先週もここからの景色を無意味に長い時間眺めていたけど、そのときはまだ初夏の装いだった。歩く人も、飛ぶ鳥も、堂々と佇む木々も、みんな気持ち良さそうに見えた。今改めて眺めてみてると、あらゆる生物がぐったりとして見える。歩く人々はみんな一様に背中を丸めてうつむいているし、鳥は電線に足を置いたまま飛び立とうとすらしない。木々に至っては喉が乾いて仕方がないと訴えるようにしなだれていた。
もちろん、例外なく私もぐったりした気分でいる。涼しい店内にいるから、精神的に、という意味合いでだけど。

それは全部目の前で楽しそうにアイスティーを口につけるこの男のせい。

「ねえ、もちろん聞こえてただろ?無視するなんてひどいなぁ」

ひどい、なんて欠片も思ってないくせに。言葉と表情ぐらい合わせて話してほしい。

「答えてくれるまで何度でも聞くけど、ボク。…まぁ、いい返事しか受け取らないけどね」

汗をかき始めているグラスの中身を一気に飲み干して、私は席を立った。嫌みを込めて一瞥したらそれはもう嬉しそうに口元をほころばすものだから、本当にとんでもない男だと思う。そんな全てがうさんくさい笑みに、毎回胸がなる私はもっとひどい。

「悪いけど…今日は逃がさないよ」
「…っ」

立ち上がったはずの私の体はついさっきまでかけていたイスに一瞬で戻された。完璧にくっついて離れないイスに一体いつやられたんだろうと考えてみたけど、結局どうでもよくなってやめた。そんなことを考えても何も解決しない。

「さぁ、どうするんだい?」
「…分かった、付き合ってあげる」

楽しそうな笑みは一瞬で消えた。拍子抜けした、そう言いたげな表情。

「本当かい?」
「だってそう言わないといつまでたってもこの状態のままなんでしょ。私は早く帰りたいの」

そう、本当に早く帰りたい。内心ばくばくしてるのがいつバレてしまうかが怖い。ヒソカと付き合えるなんて、願ってもないことなんだから。

「へえ、思ったより従順だなぁ」
「そ?用はそれだけでしょ、私帰るから」

つまらなそうな顔をするヒソカにさっと背を向けて、急いでるふうには見えないように注意を払って足を進める。うんざりしてるように、でも余裕たっぷりに見えるように。

カラン、とどこか乾いた音をならしてドアを開けたとき、ちらりと横目で見たヒソカはさっきとはうって変わって楽しそうに私に手を振っていた。動揺しかける鼓動とヒソカをなんとか、でも完璧に無視して、私はその一大イベントを見事予定通り終えた。
 

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