中編
□訴えた愛
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クロロは私を抱かなかった。
壊れた人形のように愛してると何度も呟いてすがるように私を抱きしめて、疲れ果てて糸が切れたように寝てしまった。
ソファで静かな寝息を立てるクロロの寝顔はあどけなくて、髪をやさしくすく私の手をおもむろに取ってクロロは胸元できつく握りしめた。血色の悪い肌とあまりにも静かに眠るクロロは、きっとあまり寝てないんだろう。
窓から入り込む月明かりは、クロロを儚げに映し出す。消えてしまいそうに、見える。
フィンはどうしてるだろう。クロロの頬に残る涙の跡に触れながら思う。私のせいでフィンを巻き込んでしまった。フィンは何も関係ない。こんなことを言えば、きっとフィンは怒るし悲しむ。それでも、それはその通りの事実だし、そしてもう巻き込みたくない。私を何度も救ってくれたフィンを、もう傷つけたくない。
「何を考えている」
はっとして顔を上げると、クロロは漆黒の瞳をぱちりと開けていた。寝起きとは思えないぐらい。
「クロロのこと…」
「嘘だな」
身を起こしたクロロは、少しふらつきながらキッチンへ向かった。訝しげに目を向ければ、コーヒーを入れようとしてるんだと分かった。
「クロロ、私が入れる…入れさせて?」
「いや、…そうだな、任せる。○○が入れたコーヒーは上手いからな」
そっと頭に置かれた手は、そのまま優しく私を抱き寄せた。静かに、コーヒーの香がするキッチンで唇に落とされたキスは、苦くてでも甘い、いつもの優しいキス。
「クロロ…」
「どうした?」
クロロだけがいてくれればいいとは、もう思えない。他には何もいらないなんて、もう思えない。
でも、でもね、クロロ。
「愛してるの…クロロ…」
カン、と落ちたコーヒー豆の缶は蓋が開いて、豆があたりに散らばった。香ばしくて苦い、でも確かに甘い香。
初めて私からしたキスは、甘いコーヒーの香がした。