中編

□涙
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雨の降る音が聞こえた。窓を最初ためらうように数回叩いて、そして一気に今度は躊躇なく叩きつけるように鋭い音をならして。

首にうっすらと残る痕と、それをなぞる度に引き込まれるほど綺麗な音を鳴らす鈴。
約束はもう破らない。破れない。
私が自由に動けるのは、首輪に繋がる鎖の長さの分だけ。寝室とリビングにキッチン、それにトイレ。お風呂には届かない。この首輪と鎖には何か念が込められているはずで、発動条件も何が起こるのかも私は知らない。

クロロは何も説明しなかった。
愛してるとささやいた直後、首輪をきつく締めた。吐き気をもよおす程の圧迫感と痛みの中で、それでも見つめ返したクロロは甘く微笑んでいた。クロロの本当の気持ちはまた分からないままだと、目を閉じる瞬間思った。そうして気がついたときにはこの状況で、クロロはどこにもいなかった。

ベッドに横になると鉛のような重さに感じる体が沈んだ。クロロに必要とされているのだから幸せなはずなのに、なぜか心が体と一緒に沈んでいった。昔、流星街でクロロの部屋に閉じ込められていたときにはこんなふうには思わなかった。クロロがいてくれるだけで満たされていたのに。

携帯が着信を知らせる光を点滅させていて、目をそらして無視をした。着信履歴はフィンで埋まっている。もしも出れる状況にあったとしても、きっと私は出ない。自分で思っている以上にこの事態は良くないはずだから。何もしない方がいい。何かをしたとして、それの代償が私にはもう想像がつかない。

どしゃ降りの雨は何かを隠すように視界を遮っていて、窓から見える狭い世界は、手の届かないはるか遠くの別世界のようで。私の世界とその世界が再び交わる日がいつか来るのかと考えながら、私は眠った。夢すら見なかった。つまりは私の世界はどこにも繋がっていないと私自身が無意識に理解していて、そうであればクロロに夢の中に来てほしいのに、それも叶わなかった。
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