中編

□微笑み
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雪で真っ白に染まった街を足早に通り抜ける。厚手のコートにマフラー、それに手袋をしている道行く人々の中、コートすら身につけていない私は無遠慮な視線を向けられている。あたり前のことだけど、色々と事情があるのだから放っておいてほしい。そんなことを思いながら横断歩道の信号待ちにつかまってしまう。

「○○…?」

つぶやくように言われた言葉も、自分の名前であればさすがに耳に入ってくる。かじかんでいく手をさすりながら振り向くと、相変わらずガラの悪いフィンクスが眉はないけれど眉根を寄せて私を見ていた。おかげでさらに人相が悪くなってる。

「何やってんだ?つーか、寒くねえのか?」
「…寒いに決まってるでしょ」

不思議そうな顔で、でも何も言わず上着を私の肩にかけてくれるフィンクス。こんな顔して意外と優しいから、慣れてる私でもたまに心があたたまる。笑っちゃうときもあるけど。

「ありがと、フィンクス」
「とりあえずどっか入ろうぜ、何か用でもあんのか?」

ない、と答えて私たちは近くのカフェに入った。暖房の効いた店内に、すぐに運ばれてきたカフェラテ。ずっと無意識に入れていた体の力が徐々に抜けていく。

「で、何かあったのか?」

…頼むからその顔でカフェモカとか頼まないでほしい。そしてさらに口の端に泡をつけるのもやめてほしい。

笑いをこらえながら私は今日あったことをあまり顔を見ないようにしてフィンクスに話した。クロロの欲しがっていた古書の在処の情報を偶然手に入れて、盗りに行ったはいいけどちょこちょこ苦戦してコートに派手に血がついてしまったから捨ててきた、というのをもうちょっと詳しく話した。
途中からもう本当に笑ってしまいそうで窓の外を眺めながら話していたのだけど、外はかなり吹雪いていた。さっき無理にでも帰った方がまだ良かったかもしれない。

「じゃあ今から団長んとこ行くのか?」
「そのつもりだったんだけど…吹雪いてるから無理っぽいかな」

ここからクロロの家まではかなりある。もちろん私の家も。薄い望みで一応電車の運行状況を調べてみて、やっぱり止まっていた。

「自分家に帰れんのか?」
「うーん…無理そう…」

煙草の煙をゆっくり吐き出してから、フィンクスは乱暴に灰皿の中で火を消した。クロロは煙草の匂いが嫌いだから、明日会うときには念入りに消しておかなきゃいけない。ホテルに入れればいいけど、この吹雪だときっとどこも空いてない。どこかお風呂のあるところに泊まりたい。

「ほら、行くぞ」
「…行くって、どこに?」

椅子の背にかけていた上着をまた私にかけて、フィンクスはさっさと歩き出してしまう。駆け足で追いかけて外に出ると、目の前が霞むほどの吹雪だった。

「フィン…っ、どこ行くの?」

折角暖まった体がどんどん冷えていく。それほど離れていないフィンクスすら霞んで見える吹雪に、思わずフィンクスの袖口をつかんだ。

「電車止まってんだろ?とりあえず俺ん家来いよ。雪がやんだら帰ればいいだろ」

吹雪から守るように私の肩に腕を回すフィンクスはすごく紳士的だけど、だから頼むから口の端の泡を拭いてほしい。そんなおちゃめ要素は求めてません。
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