彼のセリフシリーズ

□正直なところ手をつなぎたいと思っている
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何だかんだ私もクラピカも、ひとつのベッドで寝ることに慣れ始めていた。抱き枕の習慣は抜けてないけど、クラピカが私に抱きつかれることに慣れて、私が二度寝することも多々あった。そんな日が続いてくると、私とクラピカの距離が曖昧になるのも避けがたかった。普段ならそんなことはしないのに、例えばレオリオとの距離に少し似ていて、話しかける距離、一緒に歩くときの距離、ソファに座るときも手のひらひとつ分も離れずにかけたり。感覚が麻痺しているような気もしたけど、私は単純に嬉しかったから、そのままでいいと思っていた。

過ごしやすい日中に、レオリオと二人で買い物に行った。ゼブロさんが行こうとしてたけど、私も買いたいものがあるから代わりに行きたい!と言ったら喜んでくれた。ゼブロさんは色々と雑務をやらなきゃいけないらしく(暇そうとか思ってた私はそれを聞いて考えを改めた)、重くなりそうだからとレオリオが一緒に来てくれた。本当は一人で買いたかったけど、女には色々と必要なものがあるのだ男には思い付かないようなものもたくさん、仕方ないからレオリオも付き合わせた。ぶつぶつ文句を言いながらも最終的には下着まで一緒に選んで買ったから、やっぱりレオリオとの買い物は楽しかった。気をつかわなくていいって、らくちん。
そうして思い荷物を携えていた私は、レオリオの腕につかまって、むしろ体全体をへばりつけて帰ってきた。ゴンとクラピカがすぐに荷物を受け取ってくれたけど、そのあとしばらく、私はレオリオをクッションにして休んでいた。レオリオもいくらか疲れていたみたいで、二人でソファにかけて、私はレオリオの膝の上に座って、気づけば少しまどろんでいた。レオリオはすっかり寝入ってた。なにしろ私たちは例の鎧のような重りを身につけて買い物に行ったから。
たぶん、私は眠りかけていたんだと思う。頭がふわふわ撫でられたから、手を伸ばしてその指先に触れた。私が触れた途端離れていこうとする手を追って捕まえると、急に体が持ち上げられて、そこでびっくりして目が開いた。見上げた私の目に写ったのは、レオリオじゃなく、クラピカだった。

「クラピカ…?私、寝ちゃったのかな…」
「…………」

返事をしない目も合わせないクラピカなんて、清らかなレオリオぐらいおかしい。そしてベッドに運んでくれてるのかと思いきや、クラピカはそのまま小屋から出ていくらか歩いたところで私を降ろした。なんの前触れもなく。何か話しかけようかと思ったけど、さっき全く聞いてくれなかったし、拗ねてるとかじゃなくこれは何かたいへんなことが起きてるんじゃないかと想像して口を閉じておいた。黙ってることが正解なときもあるような気がする、たぶん。
木の葉がざわざわ音をたてていて、とりあえず静かにその音を聴いていた。クラピカが話してくれるのを待つための、ただ待ってる時間。風邪が吹き抜けるのが気持ちよくて、寝てる間にもう夕方になったんだとぼんやり思ってみたり。今日の夕飯は買い物行ったからいっぱい作ろうかなって思ってたけどムリそうかなって考えてみたり。たまにクラピカを眺めたり。かっこいいなって改めて気づいたり。そうこうしてるうちに、クラピカの足元の小枝がぱきりと音をたてて割れた。私の目を見て、いつも通りのきちんとしてるクラピカだった。

「○○、聞きたいことがある」
「………うん?」
「お前にとって私は、レオリオの代わりか、もしくはレオリオのような存在なのか」
「………うん?えっと、……ん?なんかちょっとクラピカの言いたいことがよく分からないんだけど…」

じっと見つめ返すと、クラピカは真剣な顔のままだった。つまり意味のあるちゃんとした質問なんだ、きっと。

「レオリオの代わりとか、レオリオみたいとか、そんなふうに思ったことは一度もないよ?」
「………そうか、○○」
「うん?」
「お前が好きだ」
「うん……っ!?」

クラピカの言葉が頭に浸透するまで、理解するまで、時間がかなりかかった。オマエガスキダってなに?って思うくらい、ワケの分からない状況に頭がおかしくなっていた。目の前には少しだけどほっぺが赤くなってるクラピカがいて、私は何も言えなくて、ただ時間が過ぎて。何て言いたいのか言えばいいのか、わからなくなり始めていた。
そうして落ち葉を踏みしめて距離を詰めてくるクラピカが、ゆったりとした動作で静かに私を抱き締めてくれた。吹き込むように、もう一度、○○が好きだ、と、耳元でささやいてくれた。
何も考えられない思考で、それでも思ったのはひとつだけだった。

「私のが好きだもん…」
「…それは、否定せざるをえないな」

俺の方がお前を愛しく思っている、確実に、そうくらくらしてしまうような微笑みを向けられて、私はもっとワケが分からなくなっていた。こんなことが現実に起こったとは、とても思えなかった。クラピカから離れて、とにかく一人きりで頭を整理したかった。何が起こったのか、何が原因でこうなったのか、私は混乱を極めていた。そうして小屋に向けて足を出した私を、クラピカがすぐに引き留めた。

「どうしたんだ…部屋に戻るのか?」
「えっ…う、うん…なんか、何がなんだか…一体何が起こったのか…そ、そうだ…レオリオに相談…!」
「○○、待て」
「な、なに…?」
「レオリオに相談したくなる気持ちは分かるが、いや、分かりたくないんだが…」

今すぐレオリオに全部ぶちまけたい私は、クラピカの気持ちを推し量ることは到底できそうになかった。そんなことより自分の気持ちを落ち着けることが、最優先だった、のに、クラピカが急に手を繋いでくるから、私はますます体温をあげて次に何かあれば本当に倒れそうだった。

「○○がレオリオに相談するのはいいが…レオリオのところにいくのなら、…俺は、……正直なところ、手を繋ぎたいと…思っている」

歯切れの悪いクラピカらしくない話し方だった、けど、きっと私ぐらい顔を赤らめてるクラピカを見て、私は繋がれた手を握り返した、そっと。ゆっくり顔をあげるとクラピカと目が合って、勝手に口から、好き、とこぼれてしまった。苦しいくらい溢れてくる気持ちは止めどなくて、口にしなければ潰れてしまいそうだったのかも、しれない。

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