彼のセリフシリーズ

□そういう意味で言ったのではない
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体中に重りを巻きつけて生活すること数日。私の精神は極限状態を迎えていた。重いとか、きついとか、痛いとか、そういうことじゃなくて、クラピカがかっこよすぎて、そして距離が縮まりすぎてて私の胸の休まるときがなくなり始めていた。

試験の間ずっと昼夜を共にしてたけど、泥だらけとかだったし…何よりそんな恋にうつつを抜かしてられる状態じゃなかったから、だから、ハードな筋トレ中だとしても!きちんと食事をとれてお風呂も入れて、そんな普通の生活をしてると自然と気持ちが緩んでしまっていた。目の前で楽しそうに食事してるゴンと美味しそうに豪快に食べるレオリオ、の横に、上品にスープを口に運ぶクラピカがいるとか、そういう状況が胸をときめかせてしまう。ただ一緒に食事をしてるだけでも、恋をするとこんなにも意味合いが違う。

筋トレと掃除を一体化させた一石二鳥のトレーニング中だって、クラピカがさりげなく手伝ってくれたりするだけで、私はわたわたしていた。ありがとうもろくに言えないなんて、悲しい。けど、クラピカはただ微笑むだけで一回も嫌な顔もそぶりもしなかった。どんどん好きになってしまうのは私のせいじゃなくて、クラピカのせい…だと思いたくなってしまうくらいには、優しかった。

そんな煩わしくも素敵な生活の最大の問題は、寝室のベッドが3つしかないことだった。ゼブロさんがもちろん気にしてくれたけど、そうは言っても、ゼブロさんの他には一人しかいないこの小屋にそれ以上のベッドはなかったし、私も簡単に考えすぎていた。ゴンはまだ小さいし一緒に寝ても大丈夫、そう考えた私は仕方ないと思う。ゴンの寝相がどんなに悪いか知ってたら、そんなことは口がさけても言えなかったんだけど…仕方ない。

今日も一生懸命掃除をし終えて、ベッドと一体化して眠りたい…と寝室に来たけど。ゴンと寝るのは正直無理そうだった。たとえゴンがどれどけいい子だったとしても!睡眠というのは非常に大事なのだ。そうして私はレオリオにベッドを共有するように要求した。これはやむえない、いわゆる非常事態のようなものなのだ、たぶん。

「レオリオ、お願い!ゴンほんとにすごいの…だって夜の間ずっと動き回ってるんだよ?ぐるぐる回るしなんか楽しく走る夢でも見てるのか足もばたついてるし…分かるでしょ?」
「分かるけどな…、一応俺らかなり大人になってんだぜ?そりゃ小さい頃はしょっちゅう一緒に寝たけどよ、モラルってもんを考えてみろよ」
「モラルなんて言葉の意味知らないくせに!レオリオのケチ!バカ!わからず屋!」
「………お前ってまじで子どもの頃と変わんねえな」

部屋の隅でレオリオをなんとか説得しようとしていると、ゴンが悲しそうな顔で来て、俺寝相わるくてごめんね…と私がものすごく悪いことをした気持ちになるような声で謝ってきた。 果たしてどうすればいいのかと考えあぐねていたところに、お風呂から上がったクラピカが部屋に戻ってきた。悩んでる私と困ってるレオリオと悲しそうなゴンを見て、クラピカはすぐに会話に入ってくれた。どうしたんだ、と聡明であたたかい声で。

「俺が寝相良くなれば良いんだけど…すぐに治せるものなのかな?」
「………寝相というのは本人の無意識下の状態によるものだから、すぐにとなると難しいだろう。それより、○○」

ゴンの善良だけれど無意味な質問に丁寧に応えるクラピカに見とれていた私は、急に私に向き直ったクラピカに息が止まりそうになった、危うく。

「……な、なに、クラピカ」
「お前とレオリオは幼馴染みのようだし二人で寝られればいいが、レオリオも寝相が良いとは言いがたい。それに私たちの中では一番がたいもいい」
「ん?そうだね、抱き枕にちょうど良さそうだよね」
「…いや、……私のベッドで寝るかと、暗に聞いたんだが」
「……………………!?」

完全に息が止まったと思う、たぶん。声もでないし、顔中、体中熱いから、きっと顔も真っ赤だ。レオリオと寝るのは何ともないけど、クラピカと寝るなんて、想像だけでも倒れそうだった。

「クラピカっ…おま、何言ってんだ」
「合理的に考えただけだ、何か問題があるのか?」
「問題も何も、いい年した男女がひとつのベッドで寝るってのがどういうことか気づけよ!」
「!!いや…ま、待て……わ、私は、そういう意味で、言ったのではない…!」

私がわたわたしているあいだに、レオリオの追及のせいでクラピカまでわたわたし始めていた。私だって、クラピカが単純な好意だけで提案してくれたのは分かる、分かるんだけど、気持ちがついてかないだけで。考えあぐねてクラピカを見ると、ばっちり目があった。

「く、クラピカ…私は!その、分かってるよ?えっと、その…私が寝れないのをただ心配して言ってくれてるだけだもんね!そうだよね!」
「あ、ああ…そうだが…レオリオの言い分にも一理あると…だ、だが、私は断じて!○○に邪な気持ちを持って言ったわけではない!」
「そ、そうだよね!じゃ、大丈夫だよ!ね!一緒に寝よう、クラピカ!」
「!?………そ、そうか…」

果たしてこのような経緯を経て、私とクラピカはベッドを共にするようになった。もちろんそれは問題のあることだったのだ、気づかないふりをしていただけで。

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