彼のセリフシリーズ
□何そわそわしてるんだい?
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悲しんでみせても、怒ってみせても、はたまた睨んで無視しても。ヒソカは全く私を気にしてくれない。けど、律儀なのか何なのか、付き合い始めに約束した登下校だけは、何故か欠かさず迎えに来てくれる。私が待たされたことも、1回しかない。その時は汚れた子猫を片手に現れて、捨てられてたから拾っちゃったんだ、なんて言ってて。結局その子猫をヒソカはきちんと可愛がって飼ってるから、なんだかよく分からない。そしてそんなところが好き、なんだけど。
「今日も僕が出掛けるのを健気な鳴き声で引き止めようとしてきたんだよ、全く可愛いだろ?」
「……そうだね、すっごくかわいいね。……それよりさ、うしろとか横がすごいんだけど」
毎朝聞かされる猫自慢を今日はちょっと聞き流した。いつも楽しみにしてるけど、この取り巻きみたいな女の子達にはけっこう辟易する。だって私って彼女という立場があるはずなんだから。
「ヒソカ、大好きだよ。はい、チョコレート!もちろん義理だから、義理!」
「私もけっこう好きだよ、義理チョコあげる!」
「しょうがないから、私もあげるよ!義理チョコね!義理チョコ!」
何これ、私って一体なに…。義理、義理ってしつこく言うけどさ!私がいるからとりあえずそう言ってるだけでさ!なんで私に挑発的な視線送ってくのさ!勘弁してよ、やだよ!
「んー…僕って意外と人気者なんだよ」
「……そうだね」
そんな分かりきってること聞いたわけじゃないのに。ヒソカが意外でも何でもなく周知の事実としてモテることなんか、ヒソカ以上によく知ってる。そうじゃなくて、私の扱い、こんなもんなの…?
「じゃあ、また帰りに教室まで迎えに行くよ」
「うん…ありがとう…」
ぐったりした気分でヒソカと別れて、教室に着く頃にはさらにぐったりした気持ちになった。わずらわしいから早くヒソカのそばから離れたいとは思ったけど、しっかりカバンの中に入ってるチョコレートが私に悲痛な叫びを訴えてる気がした。だって、いつ渡すの…あんな状況で…。
「○○、帰ろうか」
「………ごめん、本気で?」
今朝より取り巻きが多くなってるヒソカに、さすがに衝撃を受けた。次から次へとヒソカが持ってる紙袋だかビニール袋だかに収まっていくチョコレートと、湧いてくる女の子達。こんなにこの学校に、女の子いたんだ…というより、全校生徒に近いんじゃないの…?そんなわけないよね…?そうだよね…?
仕方なくうなだれるように歩き出した私と、楽しそうなヒソカ。私に気遣ってくれることもなければ、だからと言って邪険にするわけでもないヒソカ。もしかしなくても、私って、空気的な…感じなんじゃ…。
「そう言えば、このあと僕の家に来るって言ってたよね?」
「んー……、えっ!?」
「今朝、うちの猫を見に来るかって聞いたら、うんって言ってただろ?」
「……うん、そうだった」
全然記憶にないけど。ものすごい適当に聞き流してたんだな、私。
………あれ、もしかしなくても、放課後デート初じゃない?そして最初がお家…?えっ、それって普通なの。
「何そわそわしてるんだい?」
「………えっと、ヒソカって一人暮しだったんだね」
急なお誘いにそわそわしないわけがないと思う。男の子の部屋に入ったのも初めてだし。みゃー、と小さく鳴いて頬をすり寄せてくる子猫と、本来なら思う存分遊びたいんだけど…今の私にはちょっと無理…。