彼のセリフシリーズ

□声、聞きたいと思って
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十年後は、思ったよりもずっと早くやってきた。

また電話してやるよ、そう言ってくれたのに。あの電話から軽く数ヶ月が過ぎていて、私の我慢は限界を向かえつつあった。私から電話をかけてもキルアが出てくれたことはないし、かけ直してくれたこともない。
自分からかけようと何度もして、その度にむなしくなってやめる、というのを数十回繰り返して。キルアのばか、うそつき、いじわる、その言葉は全部、ぬいぐるみが受け止めてくれていた。

かわいそうなぬいぐるみのために、私はひさしぶりに裁縫に手を出して、なんとかぬいぐるみの洋服を作ろうと頑張っていた。少しずつ慣れを取り戻して、だんだん楽しくなってきた頃に、携帯がテーブルの上でうるさく震えた。布と糸と、裁断バサミとかペンとかに囲まれた私は、面倒くさくてその電話を無視した。大事な用ならきっとまたかかってくる、そう思って。

洋服ができあがったのは日が落ち始めた頃で、着飾ったぬいぐるみを抱きしめて、私は幸せな気分になってうとうととしていた。そうしてまた電話がかかってきて、そう言えば誰からかも確認してないし、留守電が入ってるかも確認してなかったと、気だるく起き上がって電話に出た。

「はい…、どちらさま…?」
「……おれ」

おれ。……え!

「キルア!?」
「ああ、……おまえ寝てたの?」
「や、ちょっとうとうとしてて…」

時計を見ると短針はちょうど真下を指していて、こんな時間に寝ようとしてたなんて…と自分にあきれた。

「…昼間、何してたんだよ」
「おひる?洋服作ってた、ぬいぐるみの」
「は?…なんで電話出なかったんだよ。てか、かけ直せよ」
「えっ、あの電話キルアだったの!」

やだ、私のばか!キルアからだって分かってたらすぐに出たのに!出れなくてもすぐにかけ直したのに!
………あれ、なんかそれって理不尽じゃない?

「嘘ついてんじゃねーよな?本当にぬいぐるみの服つくってたのかよ」
「む…、嘘なんかつかないもん!大体キルアなんか、電話したっていつも出ないしかけ直してくれたことなんか一回もないじゃん!」

嘘だと思われたのが悲しくて、口からは不満が溢れ出してしまっていた。せっかく話せるのに、キルアが電話をしてくれたのに。
少しの沈黙のあとに、そうかよじゃあな、と冷たい口調で言われて、ぶつりと電話は切れた。その途切れた音が耳にこびりついて、キルアとの関係まで切れてしまった気がした。

洋服を着たぬいぐるみを抱きしめて、私は静かに泣いた。作ったばかりの洋服に、涙がどんどん染み込んでいって。私の悲しみを全部、ぬいぐるみが受け止めてくれているのに、涙は途切れることがなかった。

泣きすぎて喉が乾き始めた頃に、もう一度携帯が震えた。急いで手にとって確認すると、キルアだった。

「キルア…?ごめん、ごめんなさい…」
「○○?おまえ、泣いてるのかよ」
「だって…、キルアが…」
「悪かったよ。…おまえのこと疑ったりして」

うんうん相づちを打ちながら、私はキルアのなだめる声を聞いていた。
そんなことくらいで泣くなよとか、おまえ本当におれのこと好きだよなとか。

「修行とかしててさ、おまえのこと放っといたから…急に心配になったんだよ」
「心配?…風邪も引かずに元気だよ!」
「…ちげーよ、ばか」

あ、またばかって言葉が嬉しく感じる。私って本当にばかなのかも。

「声、聞きたいと思って」
「………え」

どっか行ったりしてねーか、心配だったんだよ。
そうしてまたキルアは口が悪くなって。私はまたふにゃふにゃと笑いながら話して。

ちょっと会えないぐらい、全然耐えられる、そう思った。
 

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