彼のセリフシリーズ
□もしもし、俺だけど
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さっき別れたばかりなのに。
どうして、もう会いたくなってるんだろう。
グリードアイランド、というゲームをするために、キルアはゴンと行ってしまった。それは一応、仕事のようなものだし、ゴンのためだから仕方ないって分かってるけど。
待ってばかりの私は、やっぱりさびしい。
あんまりさびしい思いばっかりさせてると、どっか行っちゃうかもよ。
すねて、かわいげもなくして、別れ際私はキルアにそう言った。ぽつりと、でも、ちょっときつめの口調で。
返ってきたのは、気のない、ふーんという相づちだけで、私はどうしようもなく悲しくなって、すぐさま帰ろうとした。ひさしぶりにちゃんと会えた、短い時間だったのに。
列車が入ってくる音がひびき始めたホームで、キルアはキスをしてくれた。背中を向けた私を抱き寄せて、一瞬だけ。
どっか行ったら許さねーから。目を合わせないでぼそりと言われたその言葉は、キスと同じぐらい、体中を甘く震わせてきて。
私はそれだけで、今までさびしかった分も、これからのさびしい時間も、乗り越えられる、そう思った。
……思った、けど。
やっぱり、さびしいものはさびしい。
早く、キルアに会いたい。好きとか、そういう言葉だっていらないから、ただ会いたい。ただ会って、そばにいて、キルアの雰囲気とか、体温とか、そういうのを感じたい。
キルアにねだって買ってもらったぬいぐるみを抱きしめて寝るのが、私の安眠の取り方。もうこのぬいぐるみがないと、たぶん寝れない。
今日、抱きしめて、キスしてもらった感覚に浸りながらうとうとし始めたときだった。枕元に置いた携帯が震えていて、でも気持ちのいいまどろみの中にいた私はそれを無視した。キルアのことだけを考えて、記憶の中のキルアの体温を感じて、眠ろうとした。
けど、携帯は鳴り止まなかった。十秒、二十秒経っても私を呼び続ける携帯に、大事な用らしいとようやく私は電話に出た。
「……どちらさまー…?」
「もしもし、俺だけど」
俺だけど。…え!
「キルア!?」
「ああ。もう寝てたのかよ?」
どこか、からかいまじりにそう聞いてくる声も口調も、キルアだった。
あったまってきていたベッドから飛び起きて、私はなぜか正座をして、さらに携帯をしっかり持ち直して、おかしそうに静かに笑うキルアの声に全神経を集中させた。
電話っていう連絡方法があるのは分かってたけど、キルアから電話がかかってきたことなんて、数えるほどもない。
「おまえ、慌てすぎ。全部聞こえてっから。飛び起きたんだろ」
「えっ、あたり前だよ!びっくりしたもん…」
携帯から流れてくる向こうの音はとても静かで、時折風の吹く音だけが、少しだけキルアの声を、邪魔していた。キルアは、私が今日、あのあと何をしたのかだけ聞いてきて、そして聞いてきたくせに、またあの気のない相づちを返してきて、黙りこくってしまった。なにか言いづらいほどの話があるのかと、私は少し身を固まらせて、でも素直に聞いた。
「…どうしたの、キルア?なにかあったの?」
「なんもねーよ、別に」
「そうなの?…え、私が駅からちゃんと帰れたか心配だったの?」
「…ちげーよ、ばか」
ばかって言われちゃった。でもばかって言葉にすら嬉しく思うなんて、私本当にばかなのかな。
「おまえが…、どっか行ったりしねーように、電話したんだよ」
「………っ、そうなの?」
そうだよ、悪いかよ。
とたんに口の悪くなるキルアと、嬉しくてにやけて、うまく口に力を入れられなくて、ふにゃふにゃしゃべる私。
十年ぐらい、私はさびしいのを我慢できると、思った。