彼のセリフシリーズ

□俺はおまえを…って言えるか
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ボートの上の三十分はあっという間で。でもそんな短い時間が私の心をあたたかく満ち足りたものにしてくれた。

「すごい楽しかった!また乗ろうね!」
「今度はおまえも漕げよ?」
「えっ、出来るかな…」
「バカ、冗談に決まってんだろ。おまえがやりたがってもやらせてやんねえよ」

青空に響かせるように二人で笑っていると、急に雨が降りだした。見上げれば黒い雲が近づいてきていて、青空との境目がくっきりと見える。上空は風が強いみたいで、すごい速さで広がり始める雲から逃げるのは無理だった。どしゃ降りの雨は私もレオリオも一瞬で全身を濡らしてしまった。

「あははっ…お互いびしょびしょだね!」
「笑うとこか、おい」

ボート乗り場から離れた場所で降られた私たちが、雨宿りをする場所は木陰しかなかった。大きな幹に寄りかかるとしっかり受け止めてくれる大木は、いつだって頼りになるからすごい。

「すぐ止みそうだね」
「だな。しっかしこんなに濡れるとは思わなか……」

湖に叩きつけるように降っている雨を眺めながらなんとなく聞いていたレオリオの話が途切れて、そのことに気づくのに時間のかかった私にレオリオがサマーセーターをかぶせようとしてきて、よく分からなくてとりあえず押し返してみた。

「レオリオ、私寒くないよ?」
「とにかく着ろ」

そう言われても。雨をたっぷり吸い込んだサマーセーターはすごく重いし、それに謎の格好になっちゃう。せっかくのレオリオとのデートだから、かわいい白のワンピースにしたのに。

「ほんとに平気だよ。レオリオこれ脱いだら真夏の格好になっちゃうし」
「俺はいいんだよ、おまえのその格好が問題なんだ」
「えっ、まさか似合ってなかった!?」

もっと早く言ってよ!と文句を言ったらまたため息を吐かれた。ついでにちょっとあきれた顔も一緒で。なんだか今日はこんなことばっかり。

「あのな、服が…なんだ、その…透けてんだよ。だから着とけって」
「ああ、なるほど!」

納得した私に、それに安心するレオリオ。

「大丈夫!よくあることだし!」
「…何言ってんだおまえ」
「だって高校生のとき夏場の格好って大体みんなブラウス一枚だったから。みんな下着透けて見えてたよ!だからこのぐらい大丈夫だよ!」

レオリオは優しいな。こんな些細なことも気にしてくれるなんて。

「…○○」

突如として低い声に様変わりしたレオリオに、驚くのと同時に怒らせてしまったんだと気づいた。いつもの穏やかな空気はどこかへ消えてしまってる。

「レオリオ…?」
「鈍すぎるのも困りもんだな…いいか、よく聞け」
「う、うん…」
「まずおまえは周りの男の視線に気づけ。おまえを舐めるように見てるやつがそこら中にいるんだ、今日もそうだった」
「えっ…勘違いじゃない?」
「勘違いじゃねえ。おまえが気づいてないだけでそうなんだ。もう分かるよな?おまえのそんな格好を他の奴に見せたくねえんだよ、俺は」

頭からかぶせられたサマーセーターは重くて、レオリオの香が少しだけした。袖を通しても手は全然出ない。
レオリオは、私を大切に思って守ってくれてるんだ。

「ありがとう、レオリオ…大好きだよ」
「いや、俺はおまえを…って言えるか」
「え?今度は何?」

絶対言わねえと言い張るレオリオにしつこく聞き続けて、もちろん勝ったのは私。
一回しか言わねえからな、ついでに引くなよ。そんなことを言われるとますます気になる。レオリオが恥ずかしがってるから、それもなおさら。

「…俺はおまえを、閉じ込めたいぐらい本気で惚れてんだよ」

真剣な眼差しでそんなことを言われた私が、閉じ込められたいと思ったのは本気で内緒。

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