彼のセリフシリーズ
□隣にいてやってもいいぜ?
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あれから少しは静かになると思っていた○○は、俺の予想に反して団長に猛烈なアタックを繰り広げていた。次の仕事のために集まったメンバーすら気にせず、団長のためだけにコーヒーを入れたり、お菓子を作ったり、どこから手に入れたのか大量の本を持ってきたり。とにかくあらゆることだ。
団長も団長で別段拒否をするでもなく普通に接しているからなお悪い。○○がべったりとそばを離れなくても何も言わないし、本を読みながら適当に相づちを打つものだから○○は延々しゃべり続けている。
そしてもちろん懸念している問題は思ったよりもずっと早く起こった。
「あれ?フィン、団長は?」
「さぁな、さっき出掛けたぜ」
「えーどこにー?一緒に探しに行こうよー」
「行かねえよ、おまえもそんなことすんな」
やだやだー行こうよーねえねえ、フィンー。
あまりのうるささに俺が折れた。甘えた声で腕にしがみつきながら、さらに上目遣いで言われりゃ大抵の男は折れる。それが好きなやつなら尚更だ。
仕方なくあてもなしに今回訪れた特にさびれてもない都会でもない街をぶらぶらと歩いて、お目当ての団長に会えたのは奇跡に近い。隣に女が歩いてなければ、だが。
「なんだ、お前たちもここに入るのか?」
指差したそこはけばけばしく装飾されたホテルで。頼むからそんなことだけはしないでほしかった。隣にいる○○を見ることすらためらわれる。
「時間には遅れるなよ」
さっさとそこに姿を消した団長と女を意味もなく俺たちは見送ってから、またしてもしょぼくれて歩き出す○○を追いかける。
クロロもクロロだ。あれだけ○○にべったりくっつかれているんだから、○○の気持ちなんて分かりきってるくせに。はっきり言やいいんだ。何もこんな形で突き放すことはないだろうに。
「…さっきの女の人、私知ってる」
「あ?なんで知ってんだよ」
「前にこの街に来たときにも、クロロあの人と会ってた…」
こいつはとことん運がないらしい。二回もあんな場面に出くわすなんて相当ツイてない。
どっちにしても時間の問題だったのかもしれない。クロロはいたるところに手頃な女を何人も確保してる。訪ねる街それぞれに女を作るものだから、女も女だしクロロもクロロだ。
そしてそんなやつを好きな○○も○○だ。
「…映画でも見ようかな」
ぽつりとこぼれた言葉は驚くほど寂しげだった。こいつのこんな声なんか聞きたくないのに、うまい言葉のひとつも浮かばねえ。
「フィンは帰る?ごめんね、付き合わせちゃって」
「隣にいてやってもいいぜ?」
そっと握った手は小さすぎてつぶしちまいそうで、それでもぎこちなく引き寄せた。
「ひとりで映画なんか見れねえだろ、おまえは。暗い場所も、ひとりでいるのも嫌いだろ」
ガラにもないことをそっぽを向いてなんとか言い切った俺の耳に届いたのは、消え入りそうな声のありがとうだった。こいつのためなら仕方ねえから我慢してやる。映画なんて見たくもねえけど。
でもさ、もう今は暗いのもひとりなのも平気なんだよ?私もおとなになったんだよ!
そう明るい声で言う○○に目を向ければまた下手くそな笑顔で。
しょうがねえから今度は鼻をつまんでやった。苦しいよと泣く○○は全くぶさいくで、そしてそんなぶさいくな顔すらかわいいと思う俺は全くアホだ。