彼のセリフシリーズ
□なに泣きそうな顔して笑ってんだ
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「フィン、聞いて聞いて!」
パタパタと駆け寄ってくる○○は、小さい頃からずっと一緒だった。有り体に言えば幼馴染みみたいなもんだ。俺と同い年のくせに俺より頭ふたつ分は小さくて、子供にしか見えないほど幼い顔立ち。なのに体だけはしっかり発育してる。
「んだよ、うるせえな」
「あのね!今週末、団長とデートするの!」
「…デート?」
おい、ちょっと待て。いくらなんでもそれはねえだろ。クロロが○○を相手にするなんて、それだけは絶対ありえねえ。
「あー…、どこに行くのかもう決まってんのか?」
「そう、それなの!すごいんだよ!クルーズディナーなの!」
「あ?なんだ、そりゃ」
「船でね、船って言ってもすごい素敵なんだよ?それでね、クルーズしながらディナーなの!さすがだと思わない?」
……どういうことだ。これだけ聞くと本当にデートっぽいな。クロロが、○○を?いや、ありえねえだろ。
「あっ、これから買い物行かなきゃいけないんだ!またね!」
「おい、ちょっと待て…」
大体いつも人の話を聞かない○○は、俺が呼び止めてるのなんて気にもせずに行っちまう。どう考えてもあいつは何かを勘違いしてる。クロロが○○に手を出すなんてことは天と地がひっくり返ってもありえねえからだ。
確認するまでもないが、念のために週末の予定をとカレンダーを眺める。空白。大丈夫だ。あいつが来ても相手をしてやれる。
そしてもちろん俺の予想通り○○はとぼとぼと肩を落として俺のところへ来た。情けねえくらい眉を下げて、目尻にうっすら光るものを溜めて。
「フィン…、デートなんかじゃなかった…」
「だろうな」
「仕事だったの…、綺麗な女の人から情報を得るためで…それで…」
それだけ言うとうつむいてしまった○○の肩は小さく震えている。泣いちまえばいい。そしたら俺もきっと優しくしてやれる。小さい肩を抱き寄せて、泣くなよと優しく声をかけてやれる。
なのに。がばっと顔を上げた○○は下手くそな笑顔で、声も震わせて言う。
「ばかだよね、私!嬉しくて、全然話も聞かないでさ!でも、でもさ…」
「おい、ちょっとこっち来い」
張りついた笑顔のまま固まっている○○を無理矢理、乱暴に引き寄せて、顔を両手でぱちんと挟む。もちろん、それなりに手加減をして。
「なに泣きそうな顔して笑ってんだよ」
ぽかんとしたあと、ふにゃりと顔を崩して、いたいよと非難がましく訴えてくる。いたいよ、フィン…いたいよぉ、そう言ってぽろぽろこぼれるあったかい涙が俺の手に流れてくる。
これからはちゃんと人の話聞けよ。
○○が泣いちまえば優しくできると思ったのに、俺はよっぽどあまのじゃくらしい。