彼のセリフシリーズ

□俺だけ片想いしてるみたいだ
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少し休もうかとゴンは言ってすぐそばにあった喫茶店に入ってくれた。ちょうど昼時でかなり混んでいて、運良く座れたけど私たちはここでお昼ご飯を食べることにした。ゴンはクラブハウスサンドを、私はミートドリアを、それと飲み物を頼んだ。
混雑している割には早く運ばれてきて、目の前に置かれると私は途端にお腹がすいた。ミートドリアはかなりおいしくてアイスティーもなかなかだったから、ゴンのサンドイッチもきっとおいしいだろうと気になってしまう。

「ゴンのクラブハウスサンドもおいしそー」
「おいしいよ!食べる?」

はい、とゴンは渡してきて、私は戸惑いつつ受けとる。クラブハウスサンドはボリュームたっぷりで、とてもうまく食べれそうにない。というか一口だけ食べて返すなんて恥ずかしくて出来ない!

「えっと…私のも食べて?」
「ほんと?じゃあ○○が食べさせて!」

にこにこと待っているゴンに、私は非常にうろたえた。
そんな高度なことしちゃう!?こんな混んでるとこで!?恥ずかしくて死んじゃうよ!!

「ご、ゴン!人が…いっぱいいるからっ…はい!」

勇気の出なかった私はドリアをそのまま渡した。ちらっと見たゴンは一瞬きょとんとして、そして少しだけ口をとがらせた。機嫌を損ねたのはまず間違いなかった。
私今日絶対ツイてない!ゴンが一日に二回も機嫌悪くなるなんて今までそんなことなかったのに!

お店を出てからも微妙な空気は漂っていて、私とゴンはまた少し距離をあけて歩いた。どこに行くかも決めずに歩いているから、曲がり角で思った方とは違う道に行くゴンを追いかけようとして人にぶつかってしまう。

「ったぁ…ごめんなさい…」
「あ、すみません…」

正面からぶつかった人はやさしそうな雰囲気のお兄さんで、私はほっとする。よかった、ガラ悪い人とかじゃなくて。

「本当にすみませんでした、じゃあ…」
「あっ、待ってください!」

何事?と振り向くとお兄さんはなぜか戸惑いながら私の手を取った。
なんだなんだ。

「あの、これから何かご予定でも…?」
「…はい?」

なに、これ。ご予定も何も今まさにデート中なんだけど。早く行かなきゃ見失っちゃうよ。

「良ければ僕と…」
「その子、俺の彼女なんだけど」

声に振り向いたお兄さんは同然だけど固まった。おそるおそる私も顔を向けると、かなり怒ってるゴン。眉間にシワ寄ってるし顔強ばってるし!私今日本当にツイてないんじゃないの!?

「ええと…彼が言っていることは本当ですか?」
「あ…はいそうなん」
「俺の○○にベタベタ触るな!」

呆然としている私とお兄さんの手を引き剥がして、ゴンは痛いくらい強く私の手をつかんで足早に歩く。背中からも怒ってるのが分かるくらい不機嫌オーラを撒き散らして。

「ゴン…っ、待って…いたいよ…」
「○○は俺の彼女だろ!?」

さらに力を込められて乱暴に手を引かれた。ゴンがこんなに怒ったところなんか見たことがなくて、私は頭を真っ白にさせてただ立ち尽くした。

「…俺だけが片想いしてるみたいだ」

目の前の悲しい顔の原因は、私だ。
ゴンのことを悲しませたくなんかないのに。大好きなのに。

私は今までの人生で一番勇気を出して、一気に距離を詰めてゴンの唇に自分の唇を重ねた。
初めて触れたその場所はやわらかくてあったかくて、許容量を越えた私の頭はぶつんとショートした。

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