彼のセリフシリーズ

□手、つなぐの嫌だった?
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私と彼氏は四つ年が離れてる。それぐらいありじゃない?と最初はみんな言ってくれる。
問題は二つ。まず私が年上だということ。これは気持ち的な問題で割かし許される場合が多い。私もそんなに気にしてない。
問題はもうひとつの方。私が16才で彼氏が12才だということ。ここまで話をするとみんながみんな驚愕の表情を浮かべる。中には犯罪だと私に熱くさとすようにお説教してくれた人もいる。
そう、この年齢での四歳差はとてつもなく大きい。私は正直悩んでいた。好きでいることをやめるとかそういうことじゃなくて。どう接すればいいか分からなくなってしまうことが非常に多い。どこまでが許されてどこからが犯罪なのか…!
誰か教えてください。あと五分以内に。

「○○!」

ああ、もう来ちゃった!五分前行動ですか!

「ごめん、待たせちゃった?」
「う、ううん!さっき来たとこ!」

ウソです、ごめんなさい。本当は楽しみすぎて三十分前に着いてました。

「○○、今日の服かわいいね!あ、こないだのもかわいかったけど!」

うっ…ああ!かわいいかわいいかわいい、ゴン!かわいいのは君だよ、ゴン!ときめきすぎて苦しいよ!

私はゴンのかわいさにいつもやられっぱなしで、本当は抱きついたり意味もなくくっついたり頭なでたりしたいんだけど。例の理由で私はいつもいつも我慢してる。
キスなんかしたことないし、いきなりすっ飛ばしてやっちゃったりもしてない。むしろ手をつないだことすらない。
本当はすっごくさわりたいのに。

悶えながら悩んでいる私の荷物をゴンはすっと取って、持つよとスマートに言う。
このギャップが私を余計苦しめる。ゴンは子どもらしい性格なのに、とてもスマートで急に大人びたりする。唐突にかっこよくなってしまうゴンに私の心臓は毎回爆発寸前。

「ど、どこ行こっか?」
「俺行きたいとこあるんだ!いい?」
「うん、もちろん!」

どこに行くの?と聞いてもゴンは内緒!と言って歩き出してしまう。一応聞いたけど、本当はどこでもいいの。ゴンと一緒にいられればどこでも。



「映画館?」
「うん。はい、これ!」

渡されたのは前売り券じゃなくて、窓口で購入された席が指定されているチケットだった。つまり待ち合わせ場所に来る前にゴンはこれを買ってくれていたわけで。そしてそれは私が見たいとゴンに話した、完全女性向きの甘いラブロマンス映画で。
会う度にどんどん好きになってしまう。今ですら苦しいくらいなのに。

飲み物だけ買って私たちは席にかけて、映画はすぐに始まった。長い宣伝を抜けてから流れた映画本編に、私は食い入るようにのめりこんで見た。予告から想像したよりもずっと良くて、物語の終盤に差し迫ったとき私は感動してほろりと来てしまった。
すると手に突然あたたかい感覚が来て、自分の手に視線を移すと、私とそう変わらない大きさの手が重ねられていた。ゴンの手だと気づくのに私はたっぷり五秒かかって、それからゴンを見ると、ゴンはスクリーンじゃなくて私を見ていて。大好きな、やさしい笑顔で。
どくんっとまさに爆発したように心臓が暴れて、私はスクリーンに顔を向ける。
そしてまだ心臓が荒れ狂っているうちに、重なっていた手が、私の手をぎゅっと握った。あまりにも急に訪れたその行為に、私は思わず手を引いてしまう。
ゴンのことを、怖くて見れなかった。嬉しかったのに、何度も夢見たはずなのに、私はゴンの手を振り払ってしまった。

エンドロールが流れ終わってから、私たちはゆっくり席を立った。行こうと声をかけたのは私で、ゴンは何も言わずに立ち上がって歩き始める。数歩離れたうしろを私はとぼとぼ歩いて、映画館を出た。

どうしてあんなふうにしちゃったんだろう。私だったらあんなことされたら、きっと立ち直れないくらいショックを受けるのに。大好きなのに。

「…手、つなぐの嫌だった?」

悲しい音色の声は間違いなくゴンのもので、いつもの明るい声とは全然違う。人が行き交う通りの真ん中でゴンは立ち止まって振り返っていて、うつむきがちで悲しげな顔に私が泣きそうになる。

「ちが…違うの…。びっくりしちゃって…本当は嬉しかったの…」

本当なの、ともう一度だけ言って私はうつむいた。そんな弱気な私のそばにゴンはすぐに来てくれて。

「本当?」
「…ほんと。いつも手つなぎたいって、思ってた…」

すぐにつながれる手。あったかくてやさしくて。嬉しくて幸せで。

俺もずっと手つなぎたいって思ってた、と耳元でささやかれて、それだけでへたれな私は腰が抜けた。

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