彼のセリフシリーズ
□おまえの初恋の相手って俺だろ?
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思い出の場所はこの狂い咲きの桜と、あともうひとつ。私が暮らしていた、瓦礫を寄せ集めたようなただ雨風をしのげるだけの場所。そこは当時と何も変わってなかった。置いていった本も、ベッド代わりに使っていたぼろぼろのソファも。
適当な一冊を手に取ってからクロロはソファに腰かけて、それだけでソファは壊れそうな音を立てた。
「よくこんなところで生活してたよな」
「ほんと」
もう一度派手な音を鳴らして私はクロロの隣にかけた。覗きこんだ本は、私が気に入って読んでいたこれもまたラブストーリー。初恋の相手を何年も想い続ける話。
「よく読んでたよな、この本」
「…うん」
気づいてほしいと、思っていたから。告白する勇気なんてなくて、代わりにこの本をあの桜の下に持っていっていた。
「おまえの初恋の相手って俺だろ?」
顔を本に向けたまま、クロロは言った。見つめてしまう私は、いつから気づいていたのかと困惑する。
「この本ばかり持って来てたからな。そのくせ全然集中して読んでなかった」
私の考えなんて、この人は全部分かっていたのかもしれない。強すぎる想いも、弱すぎる心も。