彼のセリフシリーズ

□そういうとこ全然変わってないな
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彼は本を取り出して、そうして幹に背中を預けて読み始めた。呆然としていた私は、本のめくられる音でようやく意識を取り戻した。

少しだけ距離を開けて隣に座って、彼の手の中の本を一緒に読み始める。舞い散る花びらが本の上に何枚か落ちてから、ページがめくられる。
彼の読む速さは緩やかで、私にはいつもちょうどよかった。それは今も変わらないようで。
佳境に差し迫ったときに、私は同じ箇所を読み返していて、まだ読み終えていないそのページがめくられそうになる。彼の手に触れて待ってほしいと言葉にせずに訴える。本にのめり込む私は、気づかない内に彼にぴっとりくっついていた。

「そういうとこ全然変わってないな」

耳元で呟くように言われた言葉に顔を上げると、あまりの近さに驚いてしまう。どこか幼さの残る、でも成熟した男性の色香を漂わせる端正な顔。めまいがしそうな程、私の想いは溢れる。

「クロロ…」
「なんだ?」

次の言葉は、続かなかった。彼の名前を口にした途端、感情が高ぶって涙が溢れてしまったから。
包み込むような、昔とは全然違う手が頬に触れて、熱い指先で涙を拭くクロロ。

「会いたかったの」
「…会いたかった」

重なる声に驚いて、涙が止まる。それはクロロも同じで、お互いに顔を見合わせて、それから少ししてまた同じタイミングで私たちは笑った。

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