彼のセリフシリーズ

□邪魔してごめん、わざとだけど
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あれからシャルはことあるごとに連絡をしてくる。食事の誘いはほとんど毎日で、寝る前には必ず電話がかかってくる。
シャルとは本当に小さい頃から一緒で、お互いに支えあってあの街で暮らしていた。そんなシャルを邪険になんて出来るわけがなくて。
でもだからと言って、私は彼と過ごす時間を大事にして優先させていた。今日もいつものワインバーで仕事帰りの彼と会う。静かで、でも情熱の凝縮した時間。

彼はもうカウンターにかけてグラスワインを飲み始めていた。時計を見ると時間を五分過ぎていた。

「遅れてごめんなさい。出掛けに電話があったの」
「やあ。いいよ、気にしないで」

言い訳に聞こえるかもしれないけど、それは本当だった。シャルから電話があって、これから食事に出るからとすぐに切ったけど電車に乗り遅れてしまった。

私もグラスワインを頼んで、彼は今日一日あったことを楽しそうに話した。普通の人の、普通の日常の話。私にはまだ遠い、隔たりのある世界。

「…○○?」

呼ばれた方を振り向くと、本当に驚いた顔のシャルが立っていた。髪を上げた仕立てのいいスーツ姿で、私も驚いてしまう。

「シャル?…なんで?」

一瞬疑ってしまう。彼を見に来たんじゃないか、私のささやかな幸せを壊しに来たんじゃないかと。
そんな私の気持ちとは裏腹に、シャルは仕事帰りで偶然ここに入ったと少し疲れたふうに私の隣にかけた。

「えっと…○○…」
「あ、ごめん!幼なじみなの。たまたま仕事帰りにここに寄ったみたいで…」

戸惑う彼に簡単に紹介しようとすると、シャルは満面の笑みで自己紹介をした。いつも話を聞いてますよと最後につけ加えて。

結局三人で食事をして、シャルは私の話ばかりをした。共通の話題がないわけだから仕方ないのかもしれないけど、それでもくどい程だった。
私が小さい頃どこに行くにもひとりでは怖がって自分がいつも一緒についていたこと、機械が苦手で未だに自分を頼ってくること、そういった話を次から次へとした。
さすがに彼も違和感を感じはじめて、私はなんとか気まずい食事会を終わらせた。
もちろん彼と二人で帰ろうとしたのに、シャルがちょっとだけ話したいことがあるからと言って仕方なくシャルと帰ることにした。彼に今日はごめんなさいと謝って、でも彼はやさしく微笑んで気をつけてねとそれだけ言って帰っていった。

「もう、困るよ!絶対嫌な思いさせちゃったじゃん!」

彼が見えなくなってから、私は溜め込んだ文句をシャルに言おうと悪態をついた。悪びれもせず、シャルはくすくす笑う。

「邪魔してごめん、わざとだけど」

またどくんと鳴る心臓。夜道にコツコツと足音を響かせて、シャルは私に近づいてくる。後ずさろうとして、逆にシャルに捉えられた。

「俺から逃げるの?…そんなこと出来ると思ってる?」
「…出来るよ、シャル程じゃなくても私だってもう充分強くなったんだから、逃げようと思えば逃げれるよ」
「分かってないな、○○は。○○が俺から離れるなんて、出来るわけないんだよ」

月明かりの下、シャルは不敵に笑った。私には彼がいるんだから、シャルの言葉は簡単に否定できるはずなのに。

捉えられた手首を、なぜか振りほどけなかった。
 

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