彼のセリフシリーズ

□俺、人のものって奪いたくなるんだよね
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やった…!やっと普通の幸せを手に入れられた!

私の記憶の大半はゴミに埋もれた街。灰色の街に灰色の空。夢も希望もないくすんだ色しかない。
仲間と一緒にあの街から抜け出して、ようやく生活が安定し始めた頃。お気に入りのワインバーで彼にあった。
普通の人。どこにでもいるような、そんな一般人。でも、彼は穏やかで底抜けにやさしくて、それは私をひどく安心させた。ずっと一緒にいたい。出会って十分も経たないにそう思っていた。

両手で大事に持つ淡い色合いの花束は彼がくれたもので、その香にすら酔いそうになる。自宅のマンションにたどり着き、早く花瓶に飾ろうとドアを開けて、男物の靴がきれいに揃えられているのが目に入った。

嬉しくて仕方ない気持ちを話したくて、私を待っているだろうシャルナークの元に駆け足で向かった。

「シャル、聞いて聞いて!」
「…俺が勝手に部屋にいること、まず気にしなよ」

あきれ顔のシャル。でも今はそんなことも気にならない。シャルはいつも勝手にうちに入ってるし、その度に一応文句は言っていたけど実際はどうでもよかったりする。

「あのね、例の彼に告白されたの!」

花束をシャルの顔の前に差し出して香をかぐ。甘い香。
きょとんとしているシャルにきれいでしょ?と話しかけてから花瓶を取りに行ってテーブルに飾った。水を吸って幸せそうな花を頬杖ついて眺める。

「え、ちょっと。例の彼って、あの一般人?」

ソファから立ち上がって、シャルは私の座るテーブルのそばに来た。穏やかな雰囲気ではあるけど、信じられないという気持ちがにじみ出てる。

「そう!会ってから三ヶ月、やっとだよ!」
「それで付き合うことにしたの?」

もちろん、と花を見ながら返事をする。シャルにはずっと話を聞いてもらってたから、お礼に夕飯ご馳走してあげようかな。うん、そうしよう!

「シャル、夕飯何食べたい?今日は私がご馳走してあげる!」
「…○○」
「なに?」
「○○がいい」

至って真剣な面持ちのシャル。何を言っているのか分からなくて、私はようやく花から目を離してシャルを見上げた。

「ごはんの話だよ、シャル?」
「分かってるよ、そんなの」
「じゃあ私がいいって、なに?」

いつもは分かりやすく話をしてくれるのに、今日はどうしたんだろう。
花瓶に活けられた花を一本だけ手に取ってその花にキスを落として、シャルは私の唇にそっと花を押しあてた。

「俺、人のものって奪いたくなるんだよね」

いつもと何も変わらない笑顔のシャル。でも、何かが違う。その何かに、私の心臓は驚いてどくんと大きく鼓動が鳴り響いた。
 

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