謀と惹かれ逢えば偶然の下に

□Coincidence.6
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晴天が続く今日この頃。
私はまだ幻影旅団のアジトにいた。もちろん、私の意思とは関係なく。

「ああっ、また負けたあ!」
「まだまだだな、俺に勝とうとする気概だけは褒めてやるぜ」

暇すぎて干からびそうな私は、性懲りもなく眉なしピュアボーイのフィンクスに腕相撲を挑んでいた。しかし、こいつ強すぎる…!

「あんたまたやってんの?」
「マチ!だって負けっぱなしなんて悔しいじゃん!」
「自分が女だってこと忘れてるだろ…」

女子力高いマチたんにそんなこと言われても全然傷つきません。だってマチたんだって男より強いし!人は見かけによらないね、ほんと。

「リーア、そんなことより明日は待ちに待った雨みたいよ」
「パク…、って、ええ!?」
「おお、よかったじゃねえか。やっとおまえも俺らの役に立てるわけだな」
「…役に立ちたくない、本当に心の底から……」
「リーア!わたあめ三十キロ盗って来てやったぞ!」
「のあ!?ウボォーなにそれ!」

サンタクロースもびっくりな袋を携えたウボォーは、本当にまるでサンタクロースだった。ちょっと見た目がむさくて野蛮だけど。
三十キロのわたあめは広間の一角を堂々と陣取るように置かれて、そのくせ窓から入り込んだ風にゆらゆら揺れている。しかし、三十キロって…

「そういや何に使うんだ、わたあめ!リーアが食うのか?」

豪快にゲラゲラ笑うウボォーとフィンクス。マチはちょっと食べたいのか何気にわたあめを眺めていて、パクは団長に報告してくると言ってあのフェロモンの塊かのような体を揺らして行ってしまった。

「なあ、何に使うんだよ。大体本の丸暗記になんでわたあめが必要なんだ?」
「………食べるのよ」
「あ?」
「だから、私が食べるのよ!」

流れる沈黙。拳を握って立ち上がった私を見つめる三人。
え、そんな引かなくてもよくない?

「そうか。思う存分食え」
「ほあ!?…ど、どうしたんですか、イメチェンですか!」

突如現れたオールバックのうさんくさいイケメンは、団長とみんなから呼ばれている、ヤツだった。うさんくさいのがさらに増してる…!

「リーア、よく分かったね団長だって」
「え、だって、うさんくさ…っと嘘です!冗談です!ジョークです!」

眼力だけで殺人を犯しそうなヤツににらまれて、私はウボォーの背中に隠れた。これだけでかいとまるっきり見えなくなるから安心だわ…。

「おまえが来てからすでに三日が過ぎたわけだが…、明日はようやく雨らしい」
「そうみたいっすねー…」
「おい、バカだからといって何もかも許されると思うな。ウボォー、その女を引きずり出せ」
「ぬああ!ウボォー、待って!死んじゃう!」

首根っこを捕まえてぶん投げようとするウボォーから逃げて、私は嫌々ヤツの前に正座した。とにかく話を早く終わらせてこのデスタイムから逃れたい。

「まず、あのわたあめの用途を簡潔に説明しろ」

だから食べるんだって、そう心の中でやさぐれてみたけど。髪を上げたヤツはいつにも増して恐ろしい。腕を組んでつま先で地面をコツコツ鳴らすあたり、ほんとやなヤツ。

「頭に入り込んだ本の情報量に応じて私が食べるんです。食べないと倒れます、頭痛と吐き気で」

コツコツ鳴らされていた音が止んで、静寂が流れた。ちら、と下からヤツを見ると、口に手を当てて何か考え込んでいた。バカとかアホとか考えてたら殴ってやる…!とか言いたいのに言えなくて悲しい。

「それで、なぜ雨の日なんだ?」
「…晴れてる日には本を読みたくないからです、私はアウトドア派なんですよ」
「そうか。…つまり、おまえは異常なほどわたあめを好んでいて、雨の日にしか本を読まない、それを能力にしたわけか」

なんかこの男に言われると無性に腹立たしいのはなんなんだろう。この偉そうな態度が問題なのか…、それともうさんくさいのが根本的な問題なのか…。
私がひとり悶々と胸くそ悪い気分と対峙していると、突然吹き出したような笑い声が響き渡った。うん、まず、フィンクスを殴ろう。そのあとのことは、それから考えよう。
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