謀と惹かれ逢えば偶然の下に

□Coincidence.5
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世界中の人々の恐怖をかき集めて、それでも足りないくらい、恐怖そのものの対象である幻影旅団が、今、私の目の前にいる。どんなに恐ろしい目に遭うかと散々嘆いていたけど、これは予想外だった。

「よし。次は俺だ、バカ女」
「…なんなの。ほんとなんなの。筋肉バカなの」

テーブルに肘をついて、向かいの全然怖くない眉なしと手を組む。これでちょうど五回目の腕相撲は、本気で全力でやってるからかなりきつい。
そんなことより、一体なんなの。幻影旅団てなんなの。イメージとかけ離れてる気がするんだけど。

入団条件が腕相撲なのかな。果てしなく混乱した頭でそんなことを考えていると、金髪のこれまたうさんくさいイケメンが腕相撲の合図を告げる。眉なしがまたすっごい楽しそうな顔をしていて、私はげんなりした気持ちで適当に相手をしようとした。そして一瞬でそれがとんでもないことだと気づいた。

「!!っ、ちょ…強っ…」
「おらおら、もうおしまいかよ」

くっそ!こいつに言われるとほんと腹立つ!こうなったら筋肉切れても勝ってやる…!って、もーむりー…

へろん、と力の抜けた私の手の甲は、こつん♪なんてかわいい音じゃなく、どかん!という骨折れたんじゃね?と思われる音でテーブルに着地した。
いったい!けど、疲れてそれどころじゃない…

「あ?なんだよ、つまんねー女だな」
「男女交際すらしたことない人には言われたくないもん…」
「うっせえ!無駄口叩けねえようにしてやる、おら、早く来い」
「うう…、もうほんとむり…勘弁して…」

大体さっきの戦闘だって死ぬ思いだったんだから、私の精神はもう疲労困憊くたくたのへろへろなのよ!
ああ、もう、ほんとこいつうるさい。実はかまってちゃんなんじゃないの、これだからピュアボーイは…。

「さて、本題に入るが」
「え…、あの、腕相撲も終わったし…私一度家に…」

なんだか分からんミラクルのおかげで幻影旅団のアジトは分かったし、団員の顔も見たしなんかイメージと違うことも分かったし、とにかく作戦を練ってから私は依頼に取りかかりたかった。疲弊しすぎてるってのも多いにあるけども。

「おまえがいつ家に帰れるかは、おまえがどれだけ献身的な態度で俺たちに協力できるか、にかかっている」
「は…?え、すみません、話が見えないんですけど…」
「理解できないならそれでいい。帰るのが遠ざかるたけだ」
「ああっ、すみません!奴隷のごとく尽くさせて頂きます!」
「始めからそう言えばいいんだ、全く見た目通りのバカだな」

ひどい。なんかもう何もかもがひどすぎて、一体どこからがひどいと訴えれる基準なのか分からなくなってきた。
黒髪うさんくさいイケメンは、やたらかっこつけて土下座してる私の目の前に立った。ナルシストってこんな土下座してるやつの前に立つ姿すらかっこつけるんだ。意味不明。

「理解したところで、おまえに仕事を与えてやる」
「…はい、どうもありがとうございます」
「なかなか切り替えの早い頭だな、褒めてやろう」

ああっ、くっそ!あの眉なしより腹立つ!一ヶ月分、いや半年分くらいの怒りを感じる…!目の前のピカピカに磨かれた靴に泥塗ってやりたい!

「おまえがやることは、これだ」
「ん?って、わあ!」

今度こそどかん!とテーブルに置かれたのは辞典よりもっと分厚い本で、呆然と見た感じだけで数十冊ある。どうでもいいけど、このテーブルどうなってるの…。

「世界各国政府が極秘裏に扱う暗号化の図表、及び使用方法だ。一字一句違えず全冊覚えろ」
「…………はああ!!?」

ミシ、と音をたてるテーブルの上には巨人よりずっと威圧感のある本。そしてそれよりもっと恐ろしくて威圧感のある男が私を見下ろしている。
気が遠くなりそうな混乱の中で、私が思ったのはひとつだけ。


―――――どうしてこうなった。
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