謀と惹かれ逢えば偶然の下に
□Coincidence.1
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―――どうしてこうなった。
手のひらには一枚のコイン。わずかしかない重みが、風に吹かれて飛ばれそうに感じるのと同時に、自分を苦しめる元凶のそれに胸が引き裂けるほどの重さを感じる。
地道にせっせと頑張ってきたはずなのに、どうしてこうも世の中は不条理なんだろう。努力は裏切らないなんて、絶対嘘だ。
だって、現に今、私は猛烈にお腹がすいてるんだから!
お腹すいたー!水じゃなくてお茶とかジュースとか飲みたいー!あったかいお風呂に入りたいー!もう冷水で体洗いたくないー!!
夜空を仰ぎながら心の中で叫んでいたとき、携帯がメールの着信を知らせる音を鳴らす。仕事!?と急いで確認すれば、どこで漏れたのかイタズラメールだった。ぱんつ♪と書かれた件名に全身から脱力するのと同時に、自然ともうやだ…とつぶやいていた。
ぱんつなんかどうだっていいのよ!私は仕事がほしいの!誰か何でもいいから私に依頼してよ…、もう犬猫探しはやだけど…全然利益にならないから…。
もう一度鳴った携帯を今度は無視して、今日のごはんどうしようかなーと投げやりに考えていると、今度は電話がかかってきた。誰かも確認せずに適当にはい、と通話ボタンを押した。
「情報屋のリーアさんで間違いありませんか?」
「そうですけど、どちらさまですかー?」
これでぱんつの色とか聞いてきたら、こいつから金をふんだくってやろう。髪の毛を指先でいじると、痛んでる毛先に無駄に虚しさが膨れ上がって、金をふんだくった上でさらにぼこしてやろうとすさんだ考えが浮かんでくる。
「前金に五千万、毎月一千万を十二ヶ月間お支払します。その他にかかった経費も全てこちらで負担した上で、依頼完了後に五億ジェニーお支払します。お引き受け頂けますか?」
「はい…?」
ぱんつ…の話じゃなかったけど。ぱんつの方がよっぽど現実的に感じる話に、一瞬頭が止まった。
なに言ってるの、この人。だって前金に五千万………?五千万!?
「ひ、お引き受けいたしましゅ!」
「では詳細は改めてメールでお送り致します」
ブツッと切れた携帯を震える手と混乱している頭で訳も分からず凝視すると、メールだよ〜というまぬけな声が携帯から鳴った。バクバクと痛いし頭がぐらぐらするほど心臓が暴れている中、ぶるぶる震える指先で、ぱんつ♪と書かれた件名の上に表示された、依頼内容について、という件名をカチッと押した。
《先程お伝えした通り、前金五千万ジェニーと今月分の一千万ジェニーを振り込みました。依頼内容は……》
「………ふ、ふええ!?」
とにかく!とにもかくにも銀行!と走り出して駆け込んだ銀行で、並んでいる人とATMを使ってる真っ最中の人を押し退けて残高を確認すると、60,000,018ジェニーと確かに表示された。目を皿にして、もうほんとに皿にして、何度も何度も確認して、私は叫んだ。もちろん歓喜の叫びを。