謀と惹かれ逢えば偶然の下に

□Coincidence.7
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涙を流す女の、小さすぎる手を取る。すぐさま具現化させたスキルハンターに手を合わせて、そして、気づいた。何も反応を示さないスキルハンターを消して時計に目をやると、広間で質問をしてから一時間と十分が過ぎていた。確かに質問をするのは早すぎた。そして広間からわたあめと本を持ってくるのにも時間はかかった。それでも、この女が本に手を乗せてから、わたあめを食べ終えて気を失うまで、短く見積もっても五十分はかかっていた。

シャツを握りしめて離さない女は、その目から一滴、また涙を流した。声は出なかったが、口の動きから、ごめん、そう言っていた。

本を変更する必要がある。今回と同じか、それ以上の時間がかかる可能性がある以上、あの本は無意味だ。うまく利用してやろうと思ったが、そう何もかもうまく行くわけでもない。
とにかく、適当な本を早急に見繕わなければいけない。

ベッドに女をおろすと、きつく握りしめたままのシャツが引かれる。小さすぎる、人形のような手を外そうと手をかけると、寝ているのは間違いないはずだが、ぼろぼろと涙が流れ落ちた。枕に染み込む涙は、シーツをじわじわと濡らしていく。インクを垂らしたように広がっていくその涙は、当然ながら悲しみを表していた。そして枕を、シーツを、有無を言わさず浸食していく。

無理矢理外せばいいだけの手を、なぜか外せない。シーツに染み込んでいく涙が、よく分からない染みを俺の中にもつけていく。それは結局のところ、俺を困惑の中に落とし込み、そしてくっきりと痕をつけた。俺には消せない、そう言った痕を。
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