tesoro mio

□tesoro mio22
2ページ/2ページ

無理矢理つかまれた手首は、きっとまた青痣になるんだろうと思うほど、痛かった。キルアが向ける射抜くような視線は、怖くて背を向けたくなるけど、私にだって言いたいことはある。

「何話してたんだよ、○○」
「…キルアなんか、大嫌い」

私の手首をつかむキルアの手が、少しだけたじろぐ。うつむいたまま、本心とはかけ離れた言葉を言ってしまった私は、泣きたくなるのをなんとか堪えた。流れる風がやけに冷たくて、キルアの手が熱く感じる。

続く沈黙に耐えられなくて、少し緩んだキルアの手を振り払おうと腕をあげたら、思いきり手を引き寄せられた。痛みに余計気分が悪くなってキルアに文句を言おうとしたのに、頭を胸に押し付けられて、また苦しいくらいきつく、抱きしめられた。

「俺は、おまえが…おかしくなるくらい、好きなんだよ…」
「……え」
「ゴンが、おまえのこと好きだって言うから…ゴンだから、どうにかして必死に我慢してたのに、なんで…ウイングと電話なんかしてんだよ」

ぎゅうぎゅう強められる腕の力は、痛いし苦しいのに、さっきとはもう全然違う。痛みは、もっと欲しくなるほど甘くひびいて、押し付けられた目の前の胸に、溶けてひとつになってしまいたくなる。もっときつく、力任せに、求めてほしくなる。

「私も、キルアが大好き。…キルアが冷たいから、悲しくて…大嫌いなんて言ってごめんなさい…」
「おまえさ…、俺がどれだけ、おまえのこと好きか全然分かってねーだろ」

だってキルアが、そう言おうとして顔をあげて、熱をはらんだ瞳と目があって。言いたいことは、たくさんあるのに。その眼差しだけで、私の何もかもを包んでしまう。そっと指先でキルアの頬に無意識に触れると、静かにまぶたを閉じたキルアの顔が近づいてきて。私もそっと目を閉じた。そうして、お互いの吐息が重なりそうになったとき、急にうしろからすごい勢いで体を引かれた。

「○○に、何をしようとしてるんですか」
「えっ…、お兄ちゃん!?」

声だけで分かるけど、反射的に振り向いたそこには、やっぱりお兄ちゃんがいた。肩で息をして、さらさらの髪から汗を滴らせて、お兄ちゃんは私を腕の中に守るように包んでいた。

「えっえっ…?なんで…?」
「○○が泣いたことを知って、僕が何もせず傍観するとでも思った?」
「…えっと、えっ?」

あまりにも唐突すぎてびっくりして頭が回らないんだけど…。とにかく、私はどうやら、やらかしたらしい。呆然と見いっていたお兄ちゃんから、しばらくしてキルアの存在を思い出して、目を向けると、どうやらキルアも相当びっくりしたみたいだった。そしてそれをじわじわと、うんざりしてる気持ちが上回り始めてるのが手に取るように分かった。…ほんと、ごめん。

「あれー?○○…と、ウイングさん!?」

ああっ、なんて面倒くさいタイミングで、ゴン!お願いだから今来ないで!
と、強く願って送った眼差しは、ゴンには全く違う意味合いで届いたらしい。駆け寄ってくるゴンは本当に満面の笑みで、そしてお兄ちゃんは私を離してくれない。

「ウイングさん、こんにちは!どうしたんですか?」
「ゴン君、ちょうど良かった。○○はキルア君に手酷く傷つけられたんですか?」
「え?」
「ちょ、お兄ちゃん!」

余計なこと言わないで!今度こそと睨むようにゴンを見つめて訴えた。のに。

「そういえば、さっき○○泣いてたかも…」
「ゴン…!それは…」

ゴンのせいだって少しはあるのに!そう叫ぼうとした私の口はゴンの手にふさがれて、お兄ちゃんはキルアを無慈悲にもお説教しに行ってしまう。
うんざりと面倒くさそうに、でもちゃんと話を聞いてるキルアに同情せざるをえない。

「…ゴン!なんであんなこと言ったの?」
「え、だって本当のことだし」

「ちょっと!あんたたち、何してるのよさ!…って、あれ、ウイング?」

ああっ、また余計なのが!一番面倒くさい人が!

「なになに、どうしたの?」

そのすっごく楽しそうに聞いてくる顔、悪いけど今は本当に面倒くさい。それより、こんなことに付き合ってる場合じゃないんだって!

たぶんどんどんヒートアップしてるだろうお説教からキルアを助けなきゃ!と向かおうとしたのに、ビスケは離してくれないしゴンは大丈夫だよなんてのんきに言ってるし。なんなの、この人たち。

なんだかもう疲れてきた私が、肩から脱力して、ビスケの質問攻めにつかまる覚悟をしたとき。不意に体がふわりと浮いて、もう慣れてしまった熱すぎる体温に包まれていた。

「わっ…、キルア!?」
「面倒くせーから逃げるぞ、ちゃんとつかまっとけ」

不安定な体勢に、キルアに言われる前に首に腕を回していた。岩山をトントンと軽く駆けて飛ぶように渡っていくキルアに、みんなが何か叫んでいる声は、全部かき消された。肝心なときは、いつだって頼りになるし、守ってくれるキルアに、私はもうどっぷりはまって、中毒になってしまっている。
小さく笑い声をもらすと、何笑ってんだよ、そう言ってキルアも目を細めて笑って。そうして少しだけ口角の上がった唇で口をふさがれた。
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ