tesoro mio

□tesoro mio15
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紅茶を二杯飲んでから、私たちはソファに並んでかけた。私がカップを片し終えて戻ると、お兄ちゃんがソファで本を読んでいたから隣にかけた。ほんの一瞬だけためらってから。

「なんの本?」
「ただの小説だよ。読んでみるかい?」
「うん、じゃあ少しだけ」

お兄ちゃんの肩に頭をこてんと預けて、本に目を向けたその自分の行為はあまりにも自然だった。習慣のように染みついていて、一行読み進めてからそのことに気づいた私がお兄ちゃんを見上げるとお兄ちゃんも少しだけ驚いていた。妹じみた雰囲気を出して離れようとした私の肩を抱き寄せたお兄ちゃんは、どうしたって私の胸を強く打つ。

「…やっぱり少し妬くな」
「やく?」
「キルア君に嫉妬するね、少し」

本の閉じる音がして、腰を引かれて膝の上で抱きしめられた。アールグレイの香に包まれても、もう苦しくはなかった。

「私も昨日の女の人に嫉妬した…すごく…」
「…知ってる」

だって、抱きしめられるとまだ嬉しい。お兄ちゃんの体温も香も、まだ覚えてる。一緒に過ごした日々が鮮明に浮かんでは消えて、あたたかさだけ残していくから。

「○○からの電話をずっと待ってたんだ」
「…電話?」
「そう、夏頃にした電話からずっと…だから会いに来てくれて本当に嬉しいよ」

私達の時間は進んでいるようで、もしかしたらほんのわずかなきっかけで戻ってしまうような危うさをはらんでいる。

「捨てられちゃうかなって、思ってた…」
「…そうすべきだったかもしれないね」

指先で触れたお兄ちゃんの首もとのラピスには、あの頃の焦がれる程の情熱も悲しすぎる愛情も、確かにまだひそんでる。もちろん、私の首もとのラピスにも。

「まだ、重度のブラコンのままみたい」
「じゃあ、僕も重度のシスコンなのかな?」

くすくす笑いあってから、読み終わった直後本を閉じる時のようなキスをして、私達は別れた。光が溢れる、愛らしいうららかな午後のことだった。
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