tesoro mio
□tesoro mio13
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部屋からの眺めはデッキからのにはもちろん劣るけど、それでもとても綺麗だった。濃い青がどこまでも続いていて、水面が光を反射していて。首から下げた青とよく似てる。
後ろめたく感じる必要なんかないはずなのに、濃い青に囲まれた中でしたキルアとのキスは、罪悪感をもたらした。私だけが幸せをつかもうとしているのかもしれない、そう思った。
考えたって分からないことなのに。お兄ちゃんが私をいつまでも想ってるわけもない。別れを切り出したのはお兄ちゃんで、私の幸せを願ってくれていたんだから。
それが言い訳だと気づいたのは、服の中から取り出したラピスが限りなく澄んでいたからだった。綺麗な気持ちを、私の勝手な想像で汚しているような気がした。
喉がつまったように苦しい。あの頃の、純粋で深くて、それでいて熱を持っていた過去の私が私を責めて、記憶の中のお兄ちゃんが私に微笑みかけてくる。あのやさしくて悲しい笑みがいつまでも消えない。
「○○?」
掌の中にラピスをとっさに握りしめて隠してから、それが無意味でなおかつ逆効果だと気づいた。表情を曇らせたキルアがやけに悲しく見えて、自分に嫌気がさしてついうつむいてしまう。
イスを引く音がして、向かいにかけたキルアから視線が投げかけられているのを感じた。何を言っても言い訳にしかならない気がして何も言えない私は、キルアに背を向けている気分がして、さらに自分自身に悲しくなった。
「○○」
いつも冷たくあしらうばかりの声が、今はやけにやさしい。キルアはずるい。大事なときには必ずやさしくてくれるせいで、私はどんどんキルアに嵌まっていってしまう。不可抗力にも等しいそれは、落ちてしまいたいと心底願ってしまう。
「顔上げて、ちゃんと聞け」
静かすぎる静寂。何かに縛りつけられたように私の体は動かなかった。頭に浮かぶのがキルアじゃないことが、どうしてなのか自分でも分からない。どうして、ずっと、悲しく微笑むの?
「ウイングに会ってこい」
再び訪れた静寂はさっきよりもさらに深まっていて耳が痛くて、唐突すぎるその言葉は、困惑だけを私に落とした。
「なに、言って…」
「ちょうど通るんだよ、この船。途中でおまえだけ降りて行ってこい」
真剣な眼差しは本気であることを切に訴えていて、私は無意識に首を横に振った。
「行かない…行かないよ…、私はキルアと一緒にいたいんだから」
「分かってる。…分かってるから、行ってこいよ」
急にイスから立ち上がるキルアがどこかに行ってしまう気がして、離れたくない、離してほしくない、そう思ってすがるように胸に飛び込んだ。
「キルアが好きなの、本当に…信じて」
「分かってる。そんなに不安がるなら、もう一回…」
俺に抱かれろよ。
途切られた言葉は、熱いキスの中でささやかれた。それは私の全てをわしづかみにして、願った通りに私はキルアに落ちた。