tesoro mio

□tesoro mio13
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不躾な言い方ってあんまり好きじゃないんだけど、でもはっきり言おう。
キルアはおかしい!

「おい、早くプレート集めろよ」
「…絶対おかしい…キルアって変」

人間業とは思えないこの状況にぶつぶつ言っちゃうのは仕方ないと思う。キルアってもしかしたら人間じゃないのかもしれない。

「誰が変だって?ぶつぶつ言ってねーで本人に言えよ」
「わあっ…うそうそ!冗談だって!」

かくしてハンター試験はあっという間に終わった。何て言うか、うん。ちょっとドキドキワクワクした自分が悲しい。何もせずに受かっちゃったのもすごい不完全燃焼。キルアはきっとさっぱりしてるんだろうけど。

「何にもしてないけど、とりあえず帰ろっか!」
「何にもしてねーのはおまえだけだろ。まあ、帰るか」

帰ろう、帰ろうと楽しく駅に向かおうとした私をキルアはまたバカ呼ばわりしてくる。

「なにさ!バカじゃないもん!」
「いや、気づけよ。海渡んなきゃいけねんだから電車じゃ帰れねーよ」
「…そんな遠いとこにいるの、私たち」

今度はバカとは言わなかったけど、こいつホント頭わりーなって感じの顔でキルアは帰り方をふたつ提案してくれた。
ひとつはちょうどここは港が近いから海路を使って帰る方法、もうひとつは飛行船で空路から帰る方法。

「どっちでもいいの?」
「空路で行った方が速いけどな、そこまで大差ねーから。おまえはどうしたい?」

空路だと二日、海路だと四日かかる道のりを想像して、私は瞬時に海路を選んだ。

「港から船で帰りたい!飽きるぐらい海見たい!」
「おっけ、じゃあ行くか」

ヨークシンに行く前の街で海に行ったけど、ひとりだと遊びづらくてあんまり楽しめてない。キルアと一緒ならたくさん遊べるし、しかも四日もある!

急に発生した楽しい出来事に私の気分は一気に上がって、港に着くまでの間に意味のない買い物をやたらしてしまった。嫌そうな顔しながらも付き合ってくれるキルアも、ちょっとだけ楽しそう。

部屋はスイートにした。せっかくの船だし一応私も試験に合格したわけだからお祝いの意味も込めて。ベッドも二つあるし。
もちろん部屋は素敵だった。調度品もベッドも質のいいものでシックな雰囲気で、でもゆったりくつろげる暖色でまとめられていた。お風呂もジャグジー機能付きで、ここも入浴剤が泡風呂で私の気分は言うまでもなく最高潮に上がった。

「素敵な部屋が空いててよかったね!」
「ああ、とにかくゆっくり寝てー」
「えっ、デッキ行こうよ!海見ようよ!」
「…四日もあんだぞ」
「だって楽しくて!行こうよ、行こう!」

俺はねみんだと言うキルアの背中を押して無理矢理部屋から出した。文句を言いつつもやっぱり付き合ってくれるキルアは本当にやさしい。

デッキは潮風が吹いてるし船が進む波の音が清々しいしで、海の青と空の青が視界いっぱいに広がる景色は壮大で。しばらく言葉が出ないほど、私はデッキの景色に心を打たれていた。

「けっこう気持ちーな」

デッキの手すりに片腕を乗せて風に髪をたなびかせるキルアを一目見て、私は目を反らしてしまった。普段とは違う場所で見るキルアはいつもとは全然違くて。爽やかな景色に溶け込むキルアは周りと調和して本当に爽やかで、とても直視出来ない。

こんなに好きになっちゃうなんて、絶対キルアのせいだ。キルアがかっこよすぎるから。突然やさしくなるのも息が止まるくらいときめいて、私ばっかり好きな気がする。私ばっかりときめくのも、不公平な気がする。

キルアの腕に抱きついてぴったりくっつく。キルアにも私と同じくらい好きになってほしい。顔を見るのも苦しいくらい好きになってほしい。

「あんまりくっつくなよ」
「やだ、くっつきたい」

腕の力を強めて、余計くっついた。どきどきしてるのが伝わっちゃうかもしれないけど、それならそれでもいい。口で直接伝えるのはシャクだけど、こうして伝わればやさしくしてくれるかもしれない。

「どうしたんだよ」
「…好きだからくっつきたいの」

そしてキルアにも同じ気持ちになってほしいの、とは言えなかった。そんなこと言ったらまたでこぴんとかほっぺつねられそう。さすがにそれはないかな?

見渡す限り青の視界に、突然キルアが入ってくる。青ばかり見ていたからかキルアの頬が少しだけ赤く見えて、見つめあった瞳がすぐにふせられて。そして落とされたキスは潮風の香がしたのに、とても甘かった。
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