tesoro mio
□tesoro mio11
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「あ、キルア見てみて!水仙咲いてる!あ、あっちにもほら!」
「早くしろっつってんだろ!」
キルアの機嫌は悪くなる一方だった。私は久しぶりの岩山地帯からの脱出で楽しくて仕方ないのに。それはもちろんキルアが一緒だからで。
「おまえ急ぐつもりねーだろ…」
「…キルアは楽しくないの?私はキルアと一緒ですっごく嬉しいのに」
ゲームの中でも一緒ではあったけど、ビスケはひっきりなしにからかってくるし、ゴンもゴンで良かれと思って無理に私とキルアを二人きりにしようとしてきたりで、はっきり言えば正直困ってた。せっかく普通に出来るようになってきていたから。
だから、こうして二人きりになれて楽しいし落ち着けた。キルアを好きだと思う気持ちも今はすごく自然に受け入れられて、キルアを独り占めできるのが嬉しいのに。
「せっかく二人きりなのに…」
少しだけだけど、ちょっと悲しくなった私は山道の水仙をしゃがんで指でつついた。やさしげに微笑む水仙がふわふわ揺れて、かわいくて愛しかった。
「○○」
バツの悪そうな声。でもすぐには振り向いてあげない。
「…キルアは私と一緒にいれて少しでも嬉しい?」
少しでも、なんて本当は言いたくない。
キルアは肝心なときはすごく頼りになるし優しいけど、普段が冷たすぎるから不安にもなるし寂しくもなる。そんなのただのわがままなのかもしれないけど。
しゃがんでうつむいたままの私の腕をキルアが取って、立つように促される。ずっと拗ねてるのもひとりよがりでむなしいから私は仕方なく立ち上がった。
直後に、抱き寄せるように後ろから回された腕は、なぜだかすごく男の人のものだと感じた。強くてたくましくて、落ちるよう安心感。そして少しずつ速くなる鼓動。
「俺が…ずっとおまえを好きでいたこと知ってるだろ」
首筋にキルアは預けるように頭を置いて言った。熱い吐息が少し触れるだけで、体中が熱くなる。そんなつもりなんかないけど、キルアにもっと触りたかった。もっとたくさん、きつく肌を触れ合わせたい。
キルアの腕に手を置いて、顔だけ振り向いてキスをした。触れるだけにしようと思ったのに、キルアも私と同じくらい熱くてそのままお互いに何度も唇を重ねた。体も頭も熱くて熱くて、息も上がって思考が溶けきってしまいそうになったとき。ぬるりと舌が入り込んできて、反射的に体を離してまたしても突き飛ばしてしまった。
「あっ…ご、ごめ…つい…ほんとつい…」
「………」
やだ、無言が一番きついのに!
結局のところ、一本杉までの長い道のりの間、私たちは一言も話さず黙々と向かった。やっと到着した先にいたキリコさんたちがとてもいい人で、ようやく私たちは普通に話せるようになって私はほっとひと安心した。けど。
困ったことに、またキルアを見るとドキドキするようになって苦しくなってしまった。キスの熱い感覚が鮮明に残っていて、もう一度したいと思う気持ちとその度に自己嫌悪が襲ってきた。早くゲームに帰りたい。キルアと二人きりだとどうにかなっちゃいそうで怖い。夜、昼とは全く別のことを私は考えて、ひどく浅い眠りに身をゆだねた。