my dear

□my dear
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ヒソカさんがくれた、あさがお、という花をリビングの出窓にことんと置く。つぼみばかりの状態で販売されているのも珍しい。

控えめにドアをノックする音がぼんやり響く。誰だろう。

「はい」
「おれ」

…なんかそう言われると、どちらさま?って言いたくなる。
ドアを開けると、少し不機嫌な顔。

「どうしたの?」
「いや…ちょっと入っていい?」
「いいけど…」

キルアと自分のためにお茶を入れる。日中は暖かくなったけど、やっぱり夜は寒い。湯気のたつカップを持ってテーブルに運ぶ。

「ミルクとかいる?」
「いい」

そっぽをむいたまま、紅茶を飲み始めるキルア。どうやらまだ機嫌は悪いみたい。キルアが話始めるのを待ってみるも、なかなか話そうとしない。むしろ目をあわすことすらしない。適当な話題を出して機嫌をなおしてもらおう。

「キルア、あさがおって知ってる?」
「…しらねー」
「この花なんだけどね」

テーブルのすぐそばにある出窓から鉢植えごととってキルアに見せる。

「今日ヒソカさんにもらったの!」
「はあ!?」

機嫌よく話しかけたのに、何かが琴線に触れたらしい。驚きと不愉快さが顔に出てる。

「おまえ、ヒソカは変態だって教えたろ!?」
「え?友達じゃないの?」
「はあ!?」

あのなとはじめてゴンのお見舞いに行った日の話をされる。
思い出した。そう言えば変態だって言ってた。

「で、なんでヒソカに花なんかもらってんだよ」
「…なんでだろ?」
「おまえ、バカだろ…」
「ひどい!」

いかにヒソカさんが恐ろしくて強くて変態であるかを熱烈に語られる。…私そんな人に荷物持ちしてもらったの?

「ヒソカとどこで会ったんだよ」
「えーと…スーパーの前で会って…荷物運んでもらっちゃって…」
「はあ!?」

本日3回目のはあ!?に肩を落とす。ツイてると思っていたら、とんでもないことだったらしい。たしかに変な雰囲気はあったけど、いい人だと思ったんだけどなぁ。

「今度からは気をつけろよ」
「はい…」
「にしても、一体何を買ったんだよ?」
「それがさ!聞いてよ!」
「な、なんだよ」
「お兄ちゃん家の冷蔵庫、りんごとトマトしか入ってないんだよ!?ズシの朝ごはんのメニューに愕然としてさ…。それでとにかく買いに買ったら一人で持ちきれない量になっちゃったんだよね!」

ああ、今思い出しても信じられない!いくらお兄ちゃんと言えど、冷蔵庫も自身の使命を果たせなくてさぞ嘆いていたことだろう。

「おまえさ…」
「ん?」

ひとりヒートアップしていたが、キルアは逆のようでまた不機嫌になっている。今日は一体なんなんだろう。

「昨日…夜、どこにいた?」
「きのう?」

どうしよう。お兄ちゃんとのことは誰にも言っちゃだめな気がする。でも、家族なんだからお泊まりくらいは普通かな…?うつむいて考えていると、キルアが先に口を開いた。

「ここの一階でぶつかったんだよ。おまえ、走っててさ。声かけても全然気づかなかったんだぜ?」
「…そうだったんだ。ごめんね?」
「いいけど。部屋に行ってもいなかったし、どこ行ってたんだ?」
「…えっと、昨日お兄ちゃんとごはん食べたんだけど、酔っぱらっちゃって…」
「は?おまえ17だろ?」
「うん、この国は16から飲酒していいんだって」

へえと紅茶を飲みほすキルア。いいよね、お泊まりしたこと話すくらい。

「それで、お兄ちゃんの宿にお泊まりしに行ったの。お兄ちゃんも心配してたから」
「…」

突然がたっと椅子からキルアが立ち上がる。飲もうとしていた紅茶を戻して、キルア?と呼び掛ける。

「帰る」
「え?もう?」

すたすたと歩いて行ってしまう背を見て、急いで手をとる。

「キルア?」
「…なんだよ」

やっぱり目をあわせてくれない。きっとなにかで怒らせたんだ。キルアとけんかなんていや。そんなの耐えられない。

「私、何かした?…ううん、嫌な思いさせたならごめん。だから」
「なんで謝るんだよ!」

大きな声にびくっと体が震える。とっさに手を離して、つい体を引きそうになる。友達にこんなふうに怒られたことなんかなくて、しかも何が原因か分からなくて戸惑う。ゆるめた指先に力を入れて、キルアの手をにぎりなおす。

「さわんな」
「!」

手を振りほどかれて、一度も振り向かずに出ていってしまう。ドアが小さくぱたんと閉まった音だけが、ずっと耳の中で響いていた。
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