my dear

□my dear
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ガチャと音をたててドアが開き、ウイングが出てくる。

「…キルア君?どうしたんだい?」
「今日ゴンが出掛けてて暇でさ、修行風景見てってもいい?」
「ええ、かまいませんよ。さぁ、入ってください」

○○の手を引いて中に入る。うしろから強い敵意をもった視線を感じて、すばやく振り返る。一瞬だったが、ウイングの不愉快な顔が目に入った。

(…なんだ?)

疑問に思ったときにはもういつも通りのあの穏やかな顔だった。

「○○、こちらへ来なさい」
「!はい」

ズシと○○がお互いに自己紹介をして、別々に修行を始める。○○がソファに正座して瞑想をしているので、椅子に座った。修行中は特に問題なさそうだと思い、点を行うことにした。

あっという間に時間が過ぎて、ウイングがズシと○○に今日はもう終わりだと告げる。さっさと帰ろうと思い、立ち上がって○○の方を見ると、まだソファに正座している。先に気づいたウイングが○○のそばに行ってどうしたんだい?と聞いている。どうやら足がしびれて動けないらしい。ぬけてるにも程がある。ひとつため息をついて、手を貸してやろうと思ったときに、ウイングの行動を見て足が止まった。
ソファに力なく座っている○○の右手をとり、もう片方の手を腰に回して抱きしめるようにふんわりと立たせて、そのまま優しく頭をなでている。○○が顔を真っ赤にして驚いていて、でも嬉しそうにしているのをウイングが見て、はっとしたように○○を思いきり離した。○○がまた泣きそうな顔をして、何か言おうと小さく口を開いてすぐに閉じてしまう。ウイングは苦しそうな顔で背を向けて、気をつけて帰るようにとつぶやくように言った。
○○が立ち尽くしているので、そばに行って、帰るぞと言う。全く聞こえていないようだった。来たときのように手をとって部屋を出る。早足で宿から出て、いくらか離れたところで手を離した。○○はまだ暗い表情で、思考の中に沈んでいるようだった。

「おい、大丈夫かよ」

肩に手をのせて軽くゆらす。それを合図に、○○が体をふるわせて涙をぼろぼろこぼして泣く。声をたてずに静かに、感情をほんの少しだけ出して涙を流している姿がきれいで、なぜか目が離せなくて、無意識に抱きしめていた。

「あー…、おまえさ、うまいケーキ屋があるって言ってたろ。行こうぜ。おごってやるから」

だからさ、泣くなよと○○の頭の後ろに手をぽんと置く。○○が小さくうなずいて、ぎこちなく離れた。

「…2個食べていい?」

涙をふいて、でもまだ濡れた目でふんわりとほほえまれる。
よかった。おまえが笑顔でいてくれるならケーキぐらい何個だっていいと思う。でも、そんなことは言わない。かわりに、太るぞと○○の頬に残っていた涙を親指で拭いて、歩き出した。
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