my dear

□my dear
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いつからだろう。
お兄ちゃんを家族として見れなくなったのは。

コップを片しながら思いにふける。
小さい頃からお兄ちゃんこだった。いつもお兄ちゃんのあとを追いかけていたし、お兄ちゃんも出かけるときには必ず声をかけてくれていた。夜寝るときは一緒のベッドで寝て、朝はお兄ちゃんが起こしてくれた。学校に行くときはお兄ちゃんが送ってくれて、帰りも時間が合えば迎えにきてくれた。
それが普通だと思っていた。

10歳になったときに、お兄ちゃんと一緒にお風呂に入るのをやめるようにお父さんに言われた。一体なにがだめなのか全く分からなかった。何度もお父さんに聞いて、もう大きくなったんだからと困ったように返された。もちろんお兄ちゃんにも聞いた。お兄ちゃんも困った顔をして、そのうち分かるよと優しく言った。
それでも納得できなくて、友達に聞いた。中には共感してくれる子もいたけれど、ほとんどはびっくりしていた。ひとり、簡潔に分かりやすく言ってくれた子がいた。

“お兄ちゃんは、男の人なんだよ”

その日はお兄ちゃんが迎えに来てくれていて、帰ろうかといつも通り差し出された手を、すぐにとれなかった。不思議な顔でどうしたんだい?と聞かれて、戸惑いながらも手をつないだ。
次の日から、お兄ちゃんと手をつなぐことができなくなった。学校の男の子もお父さんも平気なのに、お兄ちゃんだけできなかった。お兄ちゃんといるとドキドキして苦しかった。どうしてだろうと悩んだ期間は短かった。友達が同じクラスの男の子が好きで、話を聞いていて分かった。
私はお兄ちゃんが好きなんだ。
気づいてから、ドキドキはしたけど苦しくなくなった。お兄ちゃんは、私が手をつながなくなってから少し距離を取るようになっていたけど、前以上にそばにいたり甘えるようになった私に、より優しくなった。いつからかなんて分からないくらい、ずっとお兄ちゃんが好きだったんだと思った。

…もう、ずっと前のことだ。
ため息をついて、窓から外を眺める。街はさっきより深く赤く染まっていて、行き交う人々が物憂げに見えた。
お兄ちゃんが出ていったあの日。
目が覚めたときはベッドの上で、お兄ちゃんはもういなかった。両親には何も言わなかったようで、血相をかえてお兄ちゃんを探す私を見て、驚いていた。一番泣いた日。涙は枯れることがないと知った日。泣いて、疲れて浅い睡眠に無理矢理引きずり込まれて、また泣いてを繰り返した。なんとか自分を保とうとしても一番大事な部分が欠落しているから、他の部分が崩れて余計ばらばらになった。数日をそうやって過ごし、感情も考えもまとめずに必要なものだけ詰め込んで家を出た。お兄ちゃんがいない悲しみが途方もなく大きくて、両親と離れる悲しみはほとんどなかった。絶望的な感情を唯一支えてくれたのは、お兄ちゃんが言ってくれた好きだという言葉と初めてしたキスだった。
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